第45回映画文献資料研究会【10月6日】

2018/09/18 映画文献資料研究会

第45回映画文献資料研究会のお知らせ

日本映像学会文献資料研究会では、下記のように研究例会を開催いたします。会員の皆様のご参加をお待ちします。

「スタインベックなんか知らない 『ロング、ロングバケーション』におけるアメリカ旅行」

発表者:西村安弘会員(東京工芸大学芸術学部映像学科)

発表概要:『ロング、ロングバケーション』The Leisure Seeker(2017)は、東京創元社の<海外文学セレクション>として邦訳もされているアメリカ人作家マイケル・ザドゥリアンの小説『旅の終わりに』(原題はThe Leisure Seeker)を、イタリア人監督のパオロ・ヴィルズィが映画化したものである。アルツハイマーの老夫(ドナルド・サザーランド)と末期癌の老妻(ヘレン・ミレン)がキャンピング・カーに乗って、ディズニーランドを目指して旅するロード・ムーヴィーである。原作は、ジョン・スタインベックが<マザー・ロード>とも<アメリカのバックボーン>とも呼んだルート66の足跡を辿るもので、スタインベックの『怒りの葡萄』やジャック・ケルレアックの『オン・ザ・ロード』、キャロル・オコネルの『ルート66』(原題はShark Music)など、同趣向の多くのアメリカ文学の系譜に連なる小説として位置付けられるだろう。

 監督のヴィルズィは、映画実験センターでスカルペッリに師事し、デビュー作の『美しき人生』La bella vita(1994)以降、イタリア式喜劇の後継者として着実なキャリアを重ねて来た。シチリアの若者がアメリカ人旅行者を本国まで追って行くロード・ムーヴィー『マイ・ネーム・イズ・タニーノ』My Name Is Tanino(2002)は、外国人の視点からアメリカン・ドリームの挫折を描いたものだった。再びアメリカ大陸を舞台にした『ロング、ロングバケーション』は、イタリア映画の出演経験のある英語圏の俳優(サザーランドとミレン)を起用し、アメリカ人の視点を採用したが、ルート66を辿る原作をフロリダへ南下する旅程へと改変してしまった。設定上のこの大幅な変更は、アメリカ人夫婦がナポリを旅するロベルト・ロッセッリーニの『イタリア旅行』Viaggio in Italia(1954)及びその元ネタとなったジェイムズ・ジョイスの小説『ダブリン市民』への言及でもある。

 また、ヴィルズィの前作『歓びのトスカーナ』La pazza gioia(2016)が精神病院から脱走した2人組の逃避行であったように、『ロング、ロングバケーション』は老人介護及び終末医療施設からの解放を求める老人の闘争の旅でもある。1978年に公布された通称<バザーリア法>によって、精神科病院の廃絶へ向かったイタリア社会からアメリカ人に向けたメッセージであると同時に、正気と狂気の境界を往還するルイジ・ピランデッロやマルコ・ベッロッキオの主題の発展的継承としても評価されるだろう。

日時:2018年10月6日(土)15:00~16:30

会場:東京工芸大学芸術学部1号館1階ゼミ室7

   東京都中野区本町2-9-5

※例会の後に、有志による懇談会を予定

主催:日本映像学会映画文献資料研究会(代表:西村安弘)

問合先:nishimur@img.t-kougei,ac,jp

※ご来場の際は、1号館入口の警備室で、入館証をお受け取り下さい。

映画文献資料研究会
西村安弘