「第24期会長就任のご挨拶」
斉藤 綾子
2020年6月10~30日に書面議決により行われた第47回通常総会において、第24期会長に拝命いたしました。学会「初の女性会長」というお役目を引き受けることになりましたが、学会というコミュニティが、リアルかバーチャルかにかかわらず、会員各位が緩やかにつながり、研究や実践を共有し、それを発信していくような交流と生産の「場」となるように、今期の理事全員のご協力を得て、チームで学会運営をしてゆきたいと思っております。
2020年春から深刻化した新型コロナウィルス感染の世界的な広がりは、私たちの生活を抜本的に変えました。映像に関わる学術・教育・実制作・政策を取り巻く環境も大きな影響を受けています。加速化するオンライン環境や半ば強制的に維持せざるを得ない物理的な距離は、20世紀から21世紀にかけて起こった映像をめぐる大きな変化をさらに屈折させ、予測困難なものにしています。そのような変化の波をどのように捉え、それに対してどのように対処するか、あるいは回避するか、この波を悲観するだけではなく、新たな挑戦として生産的な営為につなげるためには、どのような工夫をすべきか、どのような理論を展開するべきかなど、私たち映像学会の会員ひとりひとりが歴史の転換点の目撃者であり、当事者として大きなチャレンジに直面しています。さらに、先般の日本学術会議に対する現政権の任命拒否、あるいは昨年度の「あいちトリエンナーレ2019」への補助金全額不交付の決定といった一連のできごとが示唆するように、映像研究や実作という営為自体が社会的・政治的な状況や判断とまったく無縁とは言えない状況にもなってきています。
私たちは今大きな時代の節目に立っており、「いまだない映像学の樹立をめざして発足した」映像学会の「設立の趣意」を引き続き尊重しつつ、「学会」としてどのようにあるべきだろうかと、改めて考えざるを得ません。しかし、本学会は学術と創作、理論と実践という二つの領域を分断しないという設立以来の理想を「学是」として掲げています。この理想は必ずしも、現実としてうまく機能してきたとは言いがたい面もありますが、それでも47年にわたる活動を続けてきた歴史の重さを考えれば、その理想を諦めることは出来ません。逆にこのような時だからこそ、大学所属の研究者のみならず、広い領域で活動する研究者、実作者、実践者も多く所属し、狭い意味での「学術」に囚われない会員たちが構成員である本学会の特色が、今後の方向性を探る一つの鍵を握っているように思われます。学会活動の安定的な水準を保ちつつも、研究・制作両面において創造性を高めていくために、学会として講じられる策も検討したいと思っており、会員各位からも積極的にご意見などもお寄せいただければ幸いです。
正直を申せば、学会は恒常的に非常に厳しい財政状況に置かれています。さらなる学会活動の安定と、特に若い会員の活動の場を確保していくためには欠かせない会員各位のご理解、ご協力、そして積極的な参与を切にお願いいたします。
(さいとうあやこ/日本映像学会会長、明治学院大学文学部)