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関西支部第97回研究会【7月1日】

2023/06/13 関西支部

日本映像学会関西支部第97回研究会(7月1日)のお知らせ

下記の通り日本映像学会関西支部第97回研究会を開催いたします。関西支部会員に限らず多くの方の参加をお待ちしています。

日時:2023年7月1日(土)午後2時00分より4時30分頃まで。
会場:近畿大学東大阪Eキャンパス

研究発表1:中国の民間におけるFabカメラの登場と現状
発表者:李林旭(リ リンキョク)会員 関西学院大学総合政策研究科 博士後期課程
要旨:
 近年デジタルファブリケーション技術を活かした様々な創作活動が世界中で展開されている。映像に関わる領域でもこの現象は確認でき、本発表では特にFabカメラの動きを中心に考察を行う。Fabカメラとは3Dプリンターなどのデジタルファブリケーション技術を活かし制作されるカメラを指し、特に民間レベルでの自発的な創作もしくは改造活動が盛んとなっている。この背景には、近年アナログ写真への関心が若い者たちの間で増加していること、またフィルムカメラを分解し改造することで、市場に存在しないカメラを製作したいという「Fabカメラメイカーズ」らの強い欲求が存在していると考えられる。これらのFabカメラは、元の製品の市場ポジショニングを変え、「プロチェキ」などの写真スタイルを生み出した。さらに、グローバルなコミュニティが形成され、小規模な販売現象も見られる。これらの民間的な創作・改造活動は、社会変革と技術革新の波に裏打ちされ、Fabカメラメイカーズがある程度まで通常の生産過程に生じる構造的な制約を乗り越えたことを示している。彼らは主流のカメラ工業文化を超えて、独自の写真作りの実践を開拓し、現代環境における多様な写真作り方法の潜在的な需要を明確に示している。
 Fabカメラとはどのようなものなのか、その位置づけはどこにあるのか、また、それを製作するのは誰なのか。このような問いを設定しFabカメラの活動がひときわ盛んな現代の中国(2015年以降)に着目しつつ、民間のカメラメイカーズに焦点を当て、代表的な4人のメイカーズを現地調査およびインタビューした。本発表では、メイカーの経歴、改造の動機、製作方法、製品の形態、流通方法などについて、GTA(Grounded Theory Approach)を基盤とした質的研究手法を用いて考察を行い、改造活動の発生メカニズムと現状を明らかにする。
 現時点まで、伝統的な写真作りの歴史研究において、民間のカメラ改造活動に関する研究記録はほとんど存在しておらず。本研究によって、新たな写真作り理解の手法が提案されることが期待される。また、民間改造活動によってもたらされる可能性を探求し、例えば写真教育に関連する社会的価値や次世代製品開発に関連する商業的価値などについても考察したいと考えている。

研究発表2:身体になったカメラ――「自撮り」映像論――*
発表者:近畿大学文芸学部文化デザイン学科 前川修会員
要旨:
 発表者はこれまで、二冊の写真論『イメージを逆撫でする:写真論講義 理論編』(2019年)、『イメージのヴァナキュラー:写真論講義 実例編』(2020年)で、現在のデジタル写真をめぐって考察を進めてきた。1990年代から2010年代にかけて、デジタル技術に支えられた「写真」が、実践と言説のうえで、どのような変容を起こしているのか、それを写真論の視点から明らかにしてきた。今回の発表は、『イメージのヴァナキュラー』の「セルフィ論」の続きであり、「自撮り」という行為と「自撮り」映像を見ることの双方を、以前とは別の角度から考えてみたい。
その出発点にするのは、『X線と映画』(1995年)のリサ・カートライトとアンディ・ライスによる論文「マイ・ヒーロー」(2016年)である。彼女たちは、GoProが典型的に示している現在の広義の「自撮り」映像群を、これまでのカメラ=目という体制に貫かれた系譜とは異なる、写真映像の「もうひとつの系譜」として、鮮やかに浮びあがらせているのである。写真発明時から、20世紀転換期のブローニー、やがて戦前から戦後にかけてのいっそう稼動性の増すカメラの登場、そしてスマホによるデジタル写真の蔓延、さらにはアクションカメラに至るまで、そうした装置による自撮り映像は、カメラの目を撮影者の目に限りなく近づけるというよりもむしろ、目をカメラから分離し、撮影する身体もカメラ本体も断片化させ、それらとその周囲の環境も含めて、動的な布置の中に置き入れる別種の実践である――そこでは撮影者の(目ではなく)「身体」が「カメラになる」(「カメラ=ボディ」)、そう彼女たちは主張するのである。
本発表では、カートライトらの論点に加えて、同様にGoProを起点とし、「モビリオグラフィ」という概念を提唱するリシャール・ベガンの議論(「GoPro:拡張された身体、身体的イメージ」(2018年))も参照し、自撮りの身体的次元をさらに粗描する。そして、以上の自撮り論のもつ意義を、生態心理学などの観点から捉え直し、さらにそれをリッチモンドの「体性感覚的な映像美学」に接続してみたい(『映画の身体的イリュージョン』(2016年))。
 自撮りはこれまで、否定的には、ナルシシズム的実践にすぎないという批判的観点から、あるいは肯定的には、政治的主張をエンパワーするための情動的手段として議論されてきた。そうした議論にも一理はある。しかし、自撮りは、「自分」のことが好きであろうとなかろうと、政治的主張があろうとなかろうとも、ただ自撮りするだけで自分が自分から半歩だけはみ出してしまう、一見するとたいしたこともないが、その実、映像を撮る/見る行為の根幹にかかわる実践であったのではないか。こうした、これまで見逃されていたかもしれない自撮りの身体的次元を浮かび上がらせるのが、本発表の狙いである。

研究会会場:近畿大学 東大阪Eキャンパス A館3階 301号室
交通アクセス https://www.kindai.ac.jp/access/
構内マップ https://www.kindai.ac.jp/about-kindai/campus-guide/higashi-osaka/

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