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関西支部第105回研究会【3月7日】

2026/02/17 関西支部

日本映像学会関西支部第105回研究会(3月7日)のお知らせ

下記の通り日本映像学会関西支部第105回研究会を開催いたします。関西支部会員に限らず多くの方の参加をお待ちしています。

日時:2026年3月7日(土)午後2時00分より4時30分頃まで。
会場:大阪大学豊中キャンパス

研究発表1:冷戦期の東欧アニメーションにおけるシュルレアリスム――理念の再構築と実践
発表者:馮一夫会員 京都芸術大学大学院博士後期課程
要旨:
本研究発表は、冷戦期東欧のアニメーション作家たちが、アニメーションの形式的・技術的条件のもとで、シュルレアリスムの理念および技法をいかに再構築し、具体的な創作実践へと転化させたのか、俯瞰的な視座から再検討することを目的とする。
 第二次世界大戦後から1980年代末にかけて、シュルレアリスムはポーランドのヴァレリアン・ボロフチク(Walerian Borowczyk)、チェコのヤン・シュヴァンクマイエル(Jan Švankmajer)、エストニアのプリート・パルン(Priit Pärn)ら東欧のアニメーション作家の創作に深い影響を及ぼしてきた。しかし、その影響の広範性と継続性に比して、本領域に対する体系的研究はいまだ十分とは言い難い。既存研究の多くは、特定の作家や作品に焦点を当てた分析、あるいは主題や様式の整理にとどまり、シュルレアリスムがいかなる経路で東欧アニメーションに受容され、アニメーションというメディア内部においていかなる変容や再編を遂げたのかを包括的には捉えてこなかった。
 本発表ではまず、冷戦期における東欧地域のシュルレアリスム受容の主要な経路を整理し、ポーランド、チェコスロヴァキア、エストニアを事例として、代表的作家とシュルレアリスム運動との関係を検討する。次に、「オートマティスム」「コラージュ」「デペイズマン」といったシュルレアリスムの技法や概念が、アニメーション表現の中でどのように改変され、「変形」や「生命付与」といったアニメーション固有の特性とどのように結びつき強調されていったのかを分析する。さらに、先行研究への批判的検討と冷戦期東欧の社会史的条件を踏まえつつ、シュルレアリスムの理論的基盤を形成するフロイト理論およびマルクス、エンゲルスに代表される左翼思想の継承と再解釈のあり方を考察する。
 以上を経て、冷戦期の東欧アニメーションにおけるシュルレアリスムが原初的パラダイムの単純な継承ではなく、アニメーションというメディア内部で再編成された実践形態であり、その思想的重心も、内的精神世界の探究から現実経験および近代文明に内在する非合理的構造の露呈へと移行していたことが明らかとなる。

研究発表2:『アメリカン・ストーリーズ』におけるディアスポラの表象——食事と独白の場面についての考察
発表者:橋本知子会員 大阪大学大学院人文学研究科芸術学専攻アート・メディア論コース博士後期課程
要旨:
本発表は、シャンタル・アケルマンの長編映画『アメリカン・ストーリーズ 食事・家族・哲学』(1988)を取り上げ、彼女がユダヤ系ディアスポラとしてのアイデンティティをどのように映画表現として構築したかについて考察する。とりわけ、製作動機と背景、そして「独白」と「食事」の場面に注目し、アケルマン独自の手法が成立する過程について検討する。
 アケルマンは戦後生まれであり、ホロコーストを直接経験していないが、母が生涯抱え続けたアウシュヴィッツの記憶の影響を強く受けてきた。1970年代以降、彼女はディアスポラや移民を主題とする作品を制作し、『家からの手紙』や『ねえ、教えて』では、インタビューや独白を通じて戦争体験の記憶や語りの困難さに向き合ってきた。特に『ねえ、教えて』では、当事者の体験を直接引き出すのではなく、編集や演出によって記憶を構成するというテレビ映画の手法が用いられていた。本作では、この「作り出された記憶」の方法が、より明確な形で展開されている。
 『アメリカン・ストーリーズ』では、アイザック・バシェヴィス・シンガー作の文学作品やユダヤ系新聞の投稿を下敷きに脚本が構成され、東欧系ユダヤ人の俳優によって独白が演じられる。その結果、個々の証言を単純に集積するのではなく、集合的な記憶のあり方が、演劇的で密度の高い映像空間の中に表現されている。後半の食事シーンでは、登場人物たちが同じ場所に集いながらも食事を共有せず、孤立したまま語り続けるが、この配置は、移民後の社会における共同体の分断を象徴していると考えられる。同時に、ユーモアや寸劇的要素を通じて、ユダヤ大衆演劇やボルシチ・ベルトの伝統も反映されている。
 以上の点を踏まえると、本作は、ディアスポラの経験を悲劇的な物語に回収するのではなく、日常的な実践の中に見いだされる「生き延びる知恵」として捉え直そうとする試みであった可能性がある。またその試みは、遺作『ノー・ホーム・ムービー』へと連なる映画の展開を考える上で、参照点となるだろう。

研究会会場:大阪大学豊中キャンパス 芸術研究棟 芸3講義室
アクセス:https://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/top 豊中キャンパス①

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