第28回大会[2002年]報告

日本映像学会第28回大会
2002年6月1日‐2日
主催校:早稲田大学
実行委員長:岩本憲児

 第28回大会は6月1日(土)、2日(日)の2日間、早稲田大学を会場にして開催されました。1981年の第7回大会以来、21年ぶりに大会開催校を引き受けたことになります。その当時よりは当大学所属の会員が若干増えたとはいえ、実質的に動けるスタッフはきわめて限られていましたので、前回同様、大学院生たちから大きく助けてもらって開催までこぎつけ、無事終了することができました。研究発表が21名、作品発表が7名、大会参加者数は276名、参加いただいた会員諸氏のご協力に感謝いたします。
 第1日目は早稲田大学の国際会議場を舞台に、「映像と教育」というテーマで、特別講演とシンポジウムが行われました。講演は、映画評論家としても活躍、当時文部科学省の論客であった寺脇研氏(その後、文化庁へ異動)にお願いしました。氏は映画に造詣が深いだけでなく、本職としては文部省時代から’ゆとり教育’論を展開、今年度からの中等教育に「映像メディア教育」を位置づけた方とうかがっております。今後進展する ‘映像教育’の方向に大きな示唆を与えてくれるであろうという、実行委員会側のねらいがありました。講演は現在の日本各地における教育状況をめぐる熱気あふれる話し振りで、聴衆を魅了しましたが、演題の「映像と教育の新しい関係」へ深く入るまえに、時間不足になってしまったというところでしょうか。シンポジウムについては、司会の長谷正人氏から別記、報告が掲載されますので、そちらをご覧ください。会員外から、水越伸氏(東京大学)にパネリストとしてご参加いただきました。講演とシンポジウム、双方を有機的に関連させて、大きな視野から問題提起ができればという、実行委員会側のねらい、これが成功したかどうかは、参加された聴衆の皆さんに判断を仰ぐしかありません。
 第2日目は早稲田大学文学部を会場に、三つの教室で研究発表と、一つの会場で作品発表が行われました。各発表については、それぞれ要旨が別記掲載されますので、そちらをご覧ください。三つの教室は便宜上大まかに、映画関係、映像教育と映画以外の映像関係、デジタル技術関係などに分けて、研究テーマのカテゴライズを行いました。映画分野以外にも多様な研究発表がこれだけあるのですから、これまで学会誌『映像学』の編集に携わってきた私には、このように多様な分野からもぜひ『映像学』へ論文を投稿していただきたいと、ひそかに念じたほどでした。どういうわけか、『映像学』への投稿論文はいつも大半が映画分野なのです。
 会員の作品発表は、文学部会場入り口、受付と同じフロアーの別室に大きなスクリーンで連続映写をしました。暗闇で独立した空間を確保するねらいがあったのですが、場所の案内が不徹底だったためか、また例年のように、大会における口頭発表の時間が詰まっていたという理由もあったためか、作品発表会場へ足を運ぶ方が多くはないことが残念でした。なお、作品のデジタルテープ化の授受過程で、ある会員の方の作品を紛失する不手際を生じさせました。結果的には作品発表ができたのですが、この不手際は私たち開催校の大きな落ち度であり、当該会員には精神的物質的な負担をおかけしましたことを深くお詫びいたします。この問題はその後の理事会でも報告をいたしました。今後の大会開催にあたって、私たちの不手際が教訓として生かされるよう望みます。
 文学部会場入り口、受付と同じフロアーにはもうひとつ、私たちなりの新工夫がありました。早稲田大学芸術学校の協力を得て、インスタレーション風に学生作品の映像展示を行なったことです。休憩所を兼ねて、芸術学校の学生作品を展示空間の構成とともに見ていただこうという意図から生まれたものでした。当大学の芸術学校は今春からこの名称に変更されましたが、実際には理工系の専門学校として長い歴史と伝統を持っている学校です。ただ、このところ、早稲田大学における映像実作への傾向から、芸術学校ではすでに映像実作を始めていました。より本格的には2003年4月より、埼玉県川口市に「早稲田大学川口芸術学校」が映像制作専門学校としてスタートいたします。こうした早稲田大学の新しい動向もお伝えしたいと、これは開催校としての宣伝上の思惑もあり、映像展示空間をこしらえたのですが、はたして何人の方がこの思惑に気づかれたでしょうか。
 2日目、すべての研究発表終了後、文学部会議室で多数の参加者を得て懇親会が開かれ、松本前会長、岩本新会長の挨拶、来年度大会開催校である倉敷芸術科学大学の神原正明教授の挨拶、来年度開校する早稲田大学川口芸術学校(映像情報科)に関して藪野健会員からの挨拶、などがあり、全日程を終了しました。開催校の実行委員長として、私は第7回大会を早稲田大学で開催したおりのことを思い出し、感無量となりました。その大きな理由の一つは、第7回大会の実行委員長であった山本喜久男教授が2000年3月に亡くなられたことです。コンピューター時代以前のことでしたが、会場の文学部には映像ディスプレイが可能な教室も設備もなく、映像関係の作品発表はしないことで理事会から了承をいただき、クリスチャン・メッツ教授の特別講演と、口頭による研究発表のみで大会を開きました。今大会の懇親会場に佇んで大会終了の安堵感を味わいながら、第7回大会終了の達成感が昨日のことのように思い出されました。
(執筆・記録:岩本憲児/会報第120号より)

プログラム
■6月1日(土)特別講演・シンポジウム
会場:早稲田大学国際会議場(井深大記念ホール)
12:30 受付
13:15 開会挨拶
13:30-14:45 特別講演 「映像と教育の新しい関係」 講師 寺脇 研氏(文部科学省大臣官房審議官)
15:00-17:30 シンポジウム「映像と教育」
         パネラー 岡島尚志氏(東京国立近代美術館フィルムセンター)
                斉藤綾子氏(明治学院大学文学部)
                坂井滋和氏(早稲田大学国際情報通信研究センター)
                水越  伸氏(東京大学情報学環)
         司  会  長谷正人氏(早稲田大学文学部)

■6月2日(日)研究発表・映像展・総会・懇親会
会場:早稲田大学文学部
研究発表─36号館─
10:30-11:05
   大野裕之「チャップリンの『霊泉』 アウトテイクス研究」
   織田祐宏「総合学科に於ける映像教育」
   趙  彦「画面アスペクト比の多様化が映像表現に与える影響に関する一考察」
11:10-11:45
   足立ラーベ加代「ベラ・バラージュによる画面外空間の発見」
   水口紀勢子「映像教育のグローバル・スタンダード」
   小出正志「映画とアニメーションのデジタル化に関する一考察─フォト・リアリステジック3DCG映画とデジタル・パペット・アニメーションの問題を中心に」
11:50-12:25
   飯岡詩朗「「植民地化された観客」とは何か」
   北田 綾「デジタル・アーカイブと映像表現に関する一考察─多様化する映像利用の目的が映像教育に求めること」
   木下武志「フライスルーアニメーション制作を目的としたタイミングの定量的ディレクションシステムに関する研究」
12:30-13:30 昼食
13:30-14:05
   紙屋牧子「映音時代のマキノ正博─空白の1934年」
   宇佐美昇三「留学生による日本語教材のニーズと評価調査─韓国人向けマルチメディア日本語教材の可能性をさぐる」
   飯村隆彦「DVD「Seeing/Hearing/Speaking」とマルチメディアにおける「私」」
14:10-14:45
   志村三代子「チャンバラの抵抗と敗北─大映時代のアラカン(1942-45)」
   北島裕子「映像視聴時における子どもの生理情報の計測─子どもの能動的学習の促進とIT技術の利活用」
   伊奈新祐「デジタル時代の映像論をもとめて─レフ・マノヴィッチの「ニューメディア言語論」を手がかりに」
14:45-15:00 休憩
15:00-15:35
   石塚洋史「『柳生武芸帳』シリーズと東映集団時代劇」
   早川善信「マヤコフスキー/リシツキーの詩画集『声のために』における視覚的効果について」
   北川泰三「映像表現におけるロゴスとパトスの関係─ポール・ローサ的「事実の創造的劇化」の実験」
15:40-16:15
   スザンネ・シェアマン「リメイクについての一考察」
   安來正博「瑛九のフォトグラムにおける絵画と写真の関係について」
   和田伸一郎「人は仮想現実の何に魅せられるのか」

16:30-17:30 第29回通常総会
17:40-19:40 懇親会

■映像展 6月2日(日)10:30-16:30 常時上映
会場 文学部36号館 演劇映像実習室およびラウンジ
出品者 相内啓司 阿金 風間正+大津はつね 河合明+山下耕 鄭 又龍 黄 鎔淳 吉川信雄

以上