日本映像学会第35回大会
2009年5月30日-6月1日
主催校:名古屋大学
実行委員長:茂登山清文
インフルエンザによる延期あるいは中止という事態もありえたのですが,幸運にも(と言うより他はありません)予定通り,開催することができました.多くの会員に,ご心配をおかけしたことをお詫びするとともに,そのなかで開催にお力を貸していただいた中部支部の会員ほかみなさんに,お礼申しあげます.
開催の経緯と新たな試み
実行委員会は,2008年10月3日に名古屋大学所属の会員を中心に設立されました.他には,特別講演で連携した中京大学と,前回,中部での開催に関わった名古屋市立大学から,委員に参加してもらいました.開催まで,ほぼ毎月実行委員会をひらき,テーマや実行体制について話し合いを続けました.名古屋大学という,専門的な映像教育をもたない機関で開催する意味と意義を問うなかで,大会のテーマ「映像圏における教育/視覚文化」が決まりました.特に議論を活性化しようとの意図から,講演に続くディスカッション時間を設け,パネル発表の募集をおこないました.それが大会の充実につながり,今後の映像学会のひとつの方向性を提示できたのではないかと考えています.なお,研究発表,作品発表,講演とシンポジウムについては,会報第148号のレポートをご覧ください.
会場のホスピタリティとデザイン
会場については,移動の便宜をはかるとともに,わかりやすいように野依記念館の二館を,それぞれ研究発表と作品発表とに割り当てました.全体としてコンパクトにまとめることができたかと思います.大会中のホスピタリティを高めるよう努め,ラウンジで飲み物を提供するなどしましたが,コーヒーはおいしいとの評判でした.情報交換は,主としてインターネット経由でおこない,参加もウェブでの申し込みとしました.サーバの不具合で一時的に,会員の方々に迷惑をおかけしましたが,大きなトラブルには至りませんでした.
広報から会場でのサイン,配布物まで,トータルなデザインを心がけました.全体としてわかりやすく,質の高いデザインが提供できたと思います.また,託児施設についても,開設の準備をしましたが,積極的な利用希望がなかったため,見合わせることとしました.
懇親会とエクスカーション
懇親会には,116名という予想をこえる出席者がありました.名古屋大学構内でカフェを開いているPhonon(フォノン)に依頼したのですが,ワインから名古屋名物の櫃まぶしまで,会場設営もふくめて,たいへん好評でした.予定より遅くまで,多くの会員が会場に残り,良い懇親の場となっていました.
6月1日のエクスカーションには,22名が参加しました.こちらも,実験動物へインフルエンザ感染の恐れが懸念されるとのことで,ギリギリまで実行できるかどうかの判断が遅れましたが,無事にとりおこなうことができました.霊長類研究所で案内してくれたのは,認知科学の立場から,視覚にかかわる思考言語の研究をされている友永雅己准教授でした.映像とも深く関わる分野であり,お話もたいへん興味深く,活発な質疑,意見交換がおこなわれました.明治村では,はじめに高田小熊写真館で説明をうけた後,各自,昼食をとるなど,村内を自由に見学しました.最後に名古屋芸術大学アート&デザインセンターで開催されている大会関連企画「映像メディアのコンテキスト―mediaselect2009」を鑑賞しました.会員2名を含む,主として中部を拠点に活動する8人のアーティストたちによる,映像インスタレーションの展覧会です.力のある作品のなかに,映像の新たな展開の可能性をみることができました.
大会プログラム
5月30日(土) 研究発表・作品発表・特別講演とディスカッション・懇親会
10:30-11:00
研究発表
東 英児・佐藤博昭「中東映像ワークショップの可能性―国際交流からみる映像教育」
村上泰介「子ども特有の時間表現の映像化を支援する環境構築の可能性についての研究」
中村聡史「「ブロックバスター」としての「メロドラマ」―『タイタニック』に関する一考察」
溝渕久美子「「境界」からの問いかけ―『モンキー・ビジネス』におけるチンパンジー表象をめぐって」
大久保遼「明治期の幻燈会における知覚統御の技法―教育幻燈会と日清戦争幻燈会をめぐって」
作品発表
伊藤明倫・水野勝仁『「あいまいさ」の境界』
11:10-11:40
研究発表
杉田このみ「中学生による地域コンテンツの可能性―松山市による中学生映像制作事業の取り組みについて」
織田祐宏「写真教育(実習)に於けるデジタルカメラの有効性」
飯岡詩朗「「家庭」にはもう明日はない―ダグラス・サーク『いつも明日がある』における知らなすぎた男」
横田正夫「池田宏の「空飛ぶゆうれい船」についての心理学的検討」
渡邉大輔「大正末期の社会教育映画における物語とイメージ分析―民衆娯楽論との関連から」
作品発表
黒岩俊哉『resonance #2』
河原崎貴光『capture』
11:50-12:20
研究発表
中垣恒太郎「「リアリティTV」時代におけるドキュメンタリー表現の変容―セルフ・カメラによるアイデンティティ探究とモキュメンタリーによる虚構の創出」
伏見清香「写真を使用した能動性を高める参加型の作品鑑賞支援」
山下史朗「ウディ・アレンが描く個人と共同体の関係性の考察」
吉田雅彦「「レイヤード・リアリティ」について―視聴環境の変化と自主制作アニメーションを起点に」
大矢敦子「映画興行における実演と連鎖劇―浅草 遊楽館の事例を中心に」
作品発表
上條慎太郎『OUTPUTS DEMO REEL 2009 VIDEO AND DANCE』
熊谷武洋『AKIYOSHI―胡蝶の夢―スチル写真を素材とした風景アニメーション映像』
12:20-13:20 昼食
13:30-15:20 特別講演:メアリー・アン・ドーン(ブラウン大学教授)
「クロースアップ―映画における不動性とスケール」
15:50-17:30 ディスカッサント:斉藤綾子(明治学院大学)、和田伸一郎(中部大学)
司会:藤木秀朗(名古屋大学)
18:00-20:00 懇親会
5月31日(日) 研究発表・作品発表・通常総会・懇親会
10:30-11:00
研究発表
尾鼻 崇「ファミリーコンピュータにおける「ゲームサウンド」の諸相」
川崎公平「黒澤清における「並置」と「交代」―『ドッペルゲンガー』を中心に」
馬場広信「アトム・エゴヤン監督Aurorasの背景―ヴィデオ・インスタレーションが開く「証言」の話法」
橋本 淳「「黒澤時代劇」批評としての黒澤組脚本家作品―「残酷時代劇」との関連において」
仁井田千絵「初期のミュージカル映画にみる娯楽形態の可能性」
作品発表
太田 曜『REFLEX / REFLECTION―16mm film映画作品の上映 反射する彫刻とスクリーン上に反射する光』
井上貢一『Motion Cube 2009 3-Dimensional Visual Toy』
10:30-11:40
パフォーマンス:三面マルチフィルムライブ・パフォーマンス
原 將人『マテリアル&メモリーズ―手と眼と映画と光のコスモロジー』
11:10-11:40
研究発表
竹内正人「映像教育:映画の音を設計する」
伊集院敬行「中井正一の機械美学における映画とジャック・ラカンの精神分析理論」
楊 氷「アン・リーの映画におけるシンボル―『ラスト・コーション』、『ブロークバック・マウンテン』を中心に」
桑原圭裕「宮崎駿論―東映時代劇流物語構成からの脱却」
松谷容作「色のヴァイブレーション―初期映画における手彩色についての一考察」
作品発表
末岡一郎『MARCHING ON―非連続的な視線』
李 容旭『「リタニーマイケル・ヴァイナーの追憶に―Ⅰ」のために / For [Litany-In Memory of Michael Vyner-1]』
11:50-12:20
作品口頭発表
原 將人「三面マルチフィルムライブ・パフォーマンス『マテリアル&メモリーズ―手と眼と映画と光のコスモロジー』」
研究発表
栗原詩子「映像音響詩(Audiovisuelles Gedicht)のジャンル的特性―中村滋延の3つの作品を中心に」
大村憲右「メタ映画、スクリーン、力動的イメージ―現代ハリウッド映画『デジャヴ』分析」
大城俊郎「物語と方法―消滅する作者」
吉田 馨「女性映画の三隈研次―三隈研次監督作品『婦系図』(1962年大映京都)を、マキノ正博作品、衣笠貞之助作品と比較して」
森本純一郎「声の文化としての日本の映像―声優は話芸たりうるか」
作品発表
水由 章『流れるように 紡ぐように映画フィルムでしか表現できない試み』
風間 正・大津はつね『Dé-Sign 20 La Matiére de Mémoire(記憶のマチエール)』
12:20-13:20 昼食
13:30-14:40
パネル発表「大学・大学院における映像教育」
大森康宏(代表・ディスカッサント)
宮下十有「大学授業での映像作品制作の事例とその交流」
鈴木岳海「感覚横断的映像教育手法の開発」
村尾静二「大学院教育における学術映像の役割」
13:30-14:00
研究発表
齋藤直樹「時間軸アノテーションを用いた映像学集合知形成の提案」
八尾里絵子「パブリックスペースにおける体験型映像とコミュニケーション」
小林 杏「「死後写真」を考える―メキシコ・死児写真の事例から」
広瀬 愛「映画「四谷怪談」考―豊田四郎『四谷怪談』における「悪」の描出」
小出正志「美大におけるアニメーション教育―10年目の検討」
作品発表
水野祥子『Navigated By Desires, Waiting for the Modern Tokyo Cinema Culture 1924-1939』
高山隆一『オフィーリア』
14:10-14:40
研究発表
百束朋浩「File-based workflow における映像制作支援のための動画像評価手法の検討」
北市記子「体感する映像―表現形式としてのメディア・インスタレーション」
大石和久「持続と瞬間―写真とベルクソン哲学」
森友令子「3DCGアニメーション作品における「線」に関する考察―線の消失/線の存在意義」
高橋光輝「日本におけるアニメーション教育の源流」
作品発表
藤本直樹『映画館物語2007~2008/The Movie Theater Story 2007-2008』
杉田このみ『ふと木歩という名をおもう』
15:00-15:50 第36回通常総会
16:00-17:50 シンポジウム「動画サイトは「教育の場」となるか?」
パネリスト 濱野智史(㈱日本技芸リサーチャー、情報環境研究)
大屋雄裕(名古屋大学大学院法学研究科准教授、法哲学研究)
コメンテーター 幸村真佐男(中京大学情報理工学部教授、メディア・アーティスト)
司会 秋庭史典(名古屋大学大学院情報科学研究科准教授)
6月1日(月) 8:00-18:00 エクスカーション
京都大学霊長類研究所
博物館明治村
名古屋芸術大学アート&デザインセンター
以上
(会報第148号より抜粋)