第33回大会[2007年]報告

2007年6月2日-4日
主催校:女子美術大学
実行委員長:為ヶ谷秀一

1.開催概要
 女子美術大学では最初の開催となる日本映像学会第33回全国大会は、6月2日~4日、神奈川県相模原市の公園地区にある相模原キャンパスで開催されました。開催期間中は天気にも恵まれ、木々の緑も清々しく、また隣接する公園の花々も色とりどりに咲き誇る大変心地よい環境の中で大会を開催することが出来ました。
 大会は、「映像」と言う共通の問題意識を大切にして、人間と社会の未来について自由な討論と闊達な研究の場を作り出す事を目的としており、実行委員会としては、それに相応しい環境を作ることを最も大切なテーマとして、プログラムの作成を始め発表会場設備等の整備を行い、全国から集まる会員各位がリラックスした雰囲気の中での研究発表が行えるように配意して運営に当たりました。
 特に今大会は、アートとテクノロジーの融合にも注目しながら「進化する“映像”と“メディアアート”を捉える」をテーマとし、全国より参加した映像のプロフェッショナル、研究者、クリエイター、大学等教育関係者と共に、女子美の学生たちも交えた大会となりました。斬新なデザインのWEBページを制作し、日本映像学会と第33回大会をアピールするとともに、学会参加者とのコミュニケーションを充実させるために、3回の「通信」の内容をこのWEBページを通して常にアップデートに努めました。大会の実施に当たっては、芸術学部メディアアート学科を中心にして他学科の協力を得て実行委員会を組織し、学校側の協力のもと、先生方、助手、学生達の献身的な努力と共に、映像学会事務局との密接な連携を得て、映像学会としては記録的な発表件数を収容すると共に、全国より多数の参加者を迎えることが出来ました。
 2日間の延べ参加者数は、会員、一般、学生など全体で約400名となりました。
 特別講演では、マーク・ディッペ氏(映画監督)、稲蔭正彦氏(慶應義塾大学教授)、ズビッグ・リプチンスキー氏(本学客員教授)により、映像表現者に向けた示唆に富んだ講演が行われました。また、研究発表、作品発表では、映像に対するこれからの研究や創作活動に活力と刺激を与える活発な意見交流がなされました。
 併せて、最先端の技術を知ることが映像に係る研究者やクリエイターにとっても大切なことであるとの認識から、企業の協賛を得て女子美アートミュージアム(JAM)において2日間にわたる新しい技術動向を実感する展示会を開催し、学会参加者と共に多くの見学者を迎える事が出来ました。
 最終日のエクスカーションは、20名の参加を得て、女子美術大学相模原キャンパス近くにあります「独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部相模原キャンパス」と「東京国立近代美術館フィルムセンター相模原分館」を見学し、普段余り目にすることができない宇宙開発の現状や、フィルムアーカイブスの状況について見聞を深めて頂きました。

2.研究発表および作品発表
 第33回全国大会のテーマは、「進化する“映像”と“メディアアート”を捉える」と致しましたが、映像の分野は、まさにアートとテクノロジーを融合させることが出来る分野であり、映像表現を基盤としたコミュニケーションの確立は、人々を豊かで安らかな社会に導いて行くためにも、大切な研究分野だと考えています。
 研究発表では、映画史、映画評論、映像表現、音楽表現、映像教育をはじめ、アニメーション、メディアアート表現、デバイスアート、バーチャルリアリティなど、幅広い分野からの発表が行われました。発表件数は41件となり、5つの発表会場を使用して実施されました。
 作品発表においても、フィルム作品からデジタルアート、アニメーション、インタラクティブ作品など、技術の進化と表現領域の広がりを実感する作品の発表が行われました。発表件数は24件(発表者数29名)を数え、美術館ロビーでの展示も含めて9つの会場を使用して実施されました。
 発表については、下記にプログラムがまとめられているので参照してください。

 学会員の参加は、東部123名、関西32名、中部18名、西部6名、賛助会員2名となっており、学会員の参加者は合計181名を数えました。
 また、一般参加は、23名で、学生の参加は両日で57名、女子美学生152名となっている。
 本大会において、学会員の素晴らしい研究の成果の発表や作品の上映を通して、お互いの創造性を高めるエネルギーが蓄積されると共に、これからの研究や創作活動に活力と刺激を与えるような、活発な意見交流がなされた大会となったことと思います。
 参加者にとって、研究発表とともに相互の交流の場を設けることも、学会の大会としては、大切な取り組みと考え、第一日目の発表終了後はウエルカム・パーティーを開催し、特別講演の講師も交え発表者と参加者間のコミュニケーションを深めて頂いた。
 第二日目終了後、学内のスタジオで開催された懇親会には、105名の参加を得て和やかに、そして成功裡に終了した研究発表を労いながら参加者間の交流を深めることが出来たのではないかと思います。最後に、映像学会波多野哲朗会長より、来年度第34回大会は京都精華大学で開催されることが発表されて、二日間にわたる大会は無事終了いたしました。
 関係各位のご支援、ご協力に改めて感謝申し上げます。

文責 実行委員長 女子美術大学大学院:教授 為ヶ谷秀一
(実行委員会 副委員長:羽太謙一、委員:内山博子、川口吾妻、早瀬和宏、山野雅之、滝本英男、木下道子、早乙女恵子、佐藤暁子、首藤圭介、檀上誠、中川しおじ、野間洋子、若見有佐、新堀孝明)

大会プログラム
6月2日(土) 特別講演・研究発表・作品発表・ウエルカムパーティー
11:00 受付

研究発表
11:30-12:30
 鷲谷 花「カタストロフ、ルサンチマン、スペクタクル―マキノ正博『阿片戦争』による“パニック映画”の翻案について」
 竹内正人「映像教育:シューティングプランとしての画コンテ」
12:30-12:50
 飯村隆彦「映画的黙想について」
 檜山博士「D・W・グリフィス監督による西部劇の主題的展開とその影響」
 春日太一「複雑化する連続テレビアニメのシリーズ構成~『涼宮ハルヒの憂鬱』『ひぐらしのなく頃に』における新奇的物語構造の考察~」
 羽太謙一「CAVEコンテンツの制作と教育への展開」
 百束朋浩「映像のワンソースマルチユースにおける諸問題―フォーマット先行のデジタル化に関する考察」

作品発表
11:30-11:45
 佐藤英里子『過日の出来事』
11:45-12:00
 田中綾子『TRACKS』
12:00-12:15
 上條慎太郎『Outputs Demo Reel 2007』
 若見ありさ『光在れ』
12:15-12:50
 風間正+大津はつね『De-Sign 18 <Home>』
 新堀孝明『化粧 Kesou』

12:50-14:00 昼食
14:00-14:10 当番校挨拶
14:10-17:45 特別講演 <総合司会>為ヶ谷秀一(女子美術大学大学院美術研究科教授)
14:10-15:10 特別講演1(映像出演)
「Experiences Creating Digital Imagery in Film and Television(映画とテレビのデジタル映像制作における経験)」
マーク・ディッペ氏(映画監督)
15:15-16:15 特別講演2
「近未来のエンタテイメント―進化する映像から新しいモノづくりまで―」
稲蔭正彦氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)
16:25-17:45 特別講演3「リプチンスキーの映像論」
ズビグニュー・リプチンスキー氏(映画監督・女子美術大学芸術学部メディアアート学科客員教授)
17:45-19:30 Welcome Party

6月3日(日) 研究発表・作品発表・通常総会・懇親会
10:00- 受付開始
研究発表
10:30-11:10
 今村純子「心情に映る無限~ゴダール初期作品をめぐって~」
 紙屋牧子「「男」の生きる道:戦時下の長谷川一夫と古川緑波」
 今井隆介「〈触手〉の吸引力~漫画アニメーションにおける〈触手〉についての試論」
 李 容旭「ニューメディアアートの現在―日本的なフレームについて」
 前川道博「「マルチメディア自分史」による地域ミーム伝承の試み」
11:10-11:50
 高城詠輝「オイディプス王にみる映画の物語性」
 宜野座菜央見「転換期の社会と日本映画:昭和8年(1933年)」
 小出正志「アニメーションおよびその研究における用語集・事典の構想について」
 沖 啓介「MMORPGとSecond Lifeに見る技術と文化の構造」
 松村泰三「オンブロチネマ作成ソフトの制作―過去の映像装置についてのデジタル教材化」
11:50-12:30
 山下史朗「歪なものの輝き―マーティン・スコセッシが描く個人と共同体の関係性」
 齋藤 泉「テレビにおけるドキュメントと非ドキュメント」
 中垣恒太郎「「リアリティTV」時代におけるドキュメンタリー表現の変容」
 石橋悠子「スリットカメラによる時間表現研究」
 奥 正孝「まちづくりと夢灯路」

作品発表
10:30-10:50
 木村和代『act position』
10:30-10:55
 奥野邦利『無形の者』
10:50-11:10
 山下 耕+河合 明『Chaosmos・空―Time & Space』
11:10-11:30
 キム ゼジョン『滝_noise_60mile』
11:10-11:45
 相内啓司『兎足の舞 The dance of rabbity walk』
11:30-11:45
 播磨 徹『記憶の考察』
11:30-12:30
 加藤良将『White Lives on Speaker』
11:45-12:30
 黒岩俊哉『まなざしのパッセージ 3』

12:30-13:30 昼食

研究発表
13:30-14:10
 尾鼻 崇「古典的ハリウッド映画における映画音楽の誕生と変遷―マックス・スタイナーの映画音楽を中心に―」
 桑原圭裕「ロバート・アルトマンの映像表現の特質」
 木下耕介「映画における視点と焦点化」
 伊奈新祐「映像インスタレーションについて:『Beyond Cinema』展をめぐって」
 栗原詩子「音楽表現としての映像作品~マクラレンのCanon, Le Merle, Rythmetic~」
14:10-14:50
 純丘曜彰「小説の映画化における実践的諸問題」
 阪本裕文「初期ビデオアートのメディアに対する批評性」
 橋本 淳「『椿三十郎』から『赤ひげ』へ/黒澤時代劇と受容モードの関連をめぐって」
 草原真知子「デバイスアート:メディアアートの日本的展開とその意義の考察」
 金 圭正「A Study on the elements generating the viewer participation in media art」
15:00-15:40
 兪 良根「日本映画のヌーベルバーグとデジタル時代」
 篠木 涼「ミュンスターバーグの映画美学における「道徳的価値」」
 大傍正規「無声映画期の音響実践―プログラム・選曲・伴奏上の諸問題について」
 村上泰介「子供のための映像装置研究」
 渡部英雄「プロ育成のためのアニメーション教育―カリキュラム編成について―」
15:40-16:20
 井上貢一、脇山真治「映像断片の継時的群化に関わる「演出」の効果」
 大塚美左恵「パトリス・シェローの映画における身体」
 石塚洋史「1964年前後の松竹京都撮影所の時代劇」
 水野勝仁「電子的視覚表示装置が示す視覚と触覚の関係―アイヴァン・サザーランド「究極のディスプレイ」と藤幡正樹《禁断の果実》」

作品発表
13:30-13:45
 熊谷武洋『Stella Maris』
13:30-14:00
 串山久美子『Thermoesthesia―温度感覚ディスプレイ』
13:30-16:20
 水由 章、伊藤隆介、末岡一郎、太田 曜、宮崎 淳『フィルム上映の重要性』
13:45-14:15
 大山千賀子『TRAGEDY 「悲劇」』
14:00-14:15
 李 容旭『夏夜の松代 Summer night at Matudai』
14:00-14:35
 大橋 勝『モーションペインティングとしてのビデオ』
14:15-14:45
 許 丙燦『TOKYO_2007』
14:45-15:25
 陣内利博『失われた文化のかけら―台湾マンガ産業の20世紀』
15:30-16:10
 金 圭正『Digital Interface: Air (self-reflection)』

16:40-17:40 第34回通常総会
17:40-19:30 懇親会

6月4日(月) エクスカーション
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部相模原キャンパス
独立行政法人東京国立近代美術館フィルムセンター相模原分館

以上
(会報第140号, 第141号より抜粋)