第36回大会[2010年]報告

日本映像学会第36回大会
2010年5月29日-31日
主催校:日本大学芸術学部
実行委員長:小笠原隆夫

 「日本映像学会第36回大会」は、去る5月29日(土)より5月31日(月)にかけて、日本大学芸術学部江古田校舎において行われました。まずまず天候にも恵まれ、トータル参加人数401名(学会員198名、一般参加36名、学生167名)、研究発表52件、作品発表13件にのぼり、盛況をきわめるもので、幸にも、特別な支障もなく、無事に終了することができましたことを、まずは報告したいと思います。
 昨年5月31日理事会で大会の当番校と決定した後、日本大学芸術学部では、第36回大会実行委員会を組織し、そこで、大会テーマと講演者及びシンポジウムパネラーの検討を重ねました。芸術学部では、写真学科、映画学科、放送学科と映像に関わる学科が媒体別になっていることから、三学科共通の今日的なテーマということを基本に、大会のテーマは『アナログとデジタル―映像環境はどこへ向かうのか―』と決定し、引きつづいて映像の制作、表現、保存、活用、技術、等々の分野から講演者とパネラーの候補者をあげ交渉の結果、細江英公氏(写真家)と岡島尚志氏(東京国立近代美術館フィルムセンター主幹/FIAF[国際フィルムアーカイヴ連盟/Fédération Internationale des Archives du Film]会長)にそれぞれ基調講演を、シンポジウムには山根恒平氏(テレビ技術コンサルタント)、西嶋憲生氏(映像研究家・多摩美術大学教授)、林勇気氏(映像作者・宝塚大学メディア・デザイン学科講師)にお願いすることに決定しました。
 大会を前に発表申込者が日を追って増加、これに併せて発表会場を増やし、発表時間帯も土、日共に午前、午後と枠を拡げ、各会場の司会者、タイムキーパー、連絡係などを増員して対応をしてゆきましたが、やはり、発表件数65件、講演、シンポジウム、総会、懇親会、エクスカーション等の用意には、実行委員、スタッフは大会前3日と後1日は午前様にならざるを得ないことでした。

大会初日午後からのシンポジウム
 細江氏には10メートルにも及ぼうかという長さの写真絵巻(「春本の浮世絵うつし」「大野一雄・胡蝶の夢」等)を展示し、アナログ/デジタルの対立というのではなく、それぞれの特徴を生かしたらいいのであって、氏にとってはロダンの彫刻写真撮影に、デジカメを用いた時には従来のカメラとはちがった対象への、より親密なアプローチに新しい道が拓けた体験をしたこと、また写真絵巻では、和紙にデジタルテクノロジーで写真映像を映してゆき新しい写真世界が拓かれる様相を熱く語っておられ、会場をひきつけておられました。
 岡島氏は、デジタルとはそもそもどんな考え方がベースになっているのか?という問いにラジカルな思考を、要所要所に映像をはさんで示唆に富む刺激的な論旨を展開され、映像保存の安定性、確定性等の視点から映画保存はフィルムを超える媒体はまだないだろうと力説されました。
 続いてのパネルディスカッションでは、
 山根氏はテレビ技術の現状からの報告をなさり、視聴者と利用者が今後どう向き合うかの問題については議論の場が別に必要だろう旨の報告をされ、林氏は映像デザインという自らの映像へのスタンスを判りやすくサンプルとして8分程の自作を参考映写(「The outline of everything」実写人物と一本の線(デジタル)で構成されている)し、作品づくりの基本素材をデジタルデータでいくつもいくつも保存しておいて後で使おうと引っぱり出したらデータが総て分解してしまって復元出来なかったりしたケースの報告と合わせ、デジタルを利用する映像の面白い例の報告と思えるものでした。
 西嶋氏は基本的には映像表現に於ける技術の問題としてデジタルにふれつつデジタル上映の進行はフィルム映画にとっては、根本的な変化であろうと流通と受容の側面からの指摘をされていたようでありました。
 この後会場からの質疑応答もありましたが、テーマが映像の全領域に渡っていただけでなく、デジタルという映像技術が、その制作、表現、提示、受容の全経過プロセスの根源的問題に係わっていることについて、講演者もパネラーも各専門領域でこの核心に迫った話題を提示して下さったことで、大会講演シンポジウムは好評なものとなったようでありました。
 同じ会場で、学会総会も行われましたが、いずれも段取りよくスムーズな進行であった点をその後の懇親会の席上で多くの会員諸氏の言葉として聞くことができました。

 最終日は朝10時には埼玉県川口市にあるNHKアーカイブスとSKIPシティを、午後には東京都渋谷区恵比寿にある東京都写真美術館を、それぞれ放送・映画・写真領域の映像収集・保存・活用の現場をバスツアーで20名の参加者で調査見学し、5時過ぎに散会、第36回大会全過程を終了しました。

大会プログラム
5月29日(土) 作品発表・研究発表・シンポジウム・基調講演・パネルディスカッション
10:20-10:50
作品発表
 藤本直樹『Marija’s World:マリアの世界』
研究発表
 田村順也「溝口健二映画における幻想への旅立ち―『雨月物語』の船と湖」
 森本純一郎「トーキー化を日本のメディアはどう伝えたか」
 高城詠輝「カメラの生み出す映像の多重性」
11:00-11:30
作品発表
 佐藤英里子『木貌子 KIBOKO―1 フォルムとマチエール』
研究発表
 今村純子「映像倫理学の可能性―スチーブン・ダルドリー監督『愛を読むひと』をめぐって―」
 木原圭翔「スタンリー・カヴェルと映画批評―『眺められた世界』における批評の伝統」
 渡邉大輔「昭和初期の映画教育運動における実践とその言説化―「学校」をめぐる雑誌『映画教育』の言説と講堂映画会の実態を中心に」
11:40-12:10
作品発表
 李容旭『ノスタルジアあるいは幼児的帰還への幻想』
研究発表
 紙屋牧子「マキノ雅弘監督『次郎長三国志』シリーズ(1952-1954)と労働争議をめぐるアクチュアリティ」
 昼間行雄「アニメーションの教育普及活動と高校でのアニメーションの授業―そのカリキュラムの実際と検討―」
 佐藤由紀「映像における俳優の身体性」

13:00-13:15 学部挨拶
13:20-14:05 シンポジウム基調講演1 細江英公氏(写真家)
14:10-14:55 シンポジウム基調講演2 岡島尚志氏(東京国立近代美術館フィルムセンター主幹/FIAF会長)
15:10-17:30 パネルディスカッション
 パネラー 細江英公氏(写真家)
       岡島尚志氏(東京国立近代美術館フィルムセンター主幹/FIAF会長)
       山根恒平氏(テレビ技術コンサルタント)
       西嶋憲生氏(映像研究家、多摩美術大学大学芸術学科教授)
       林 勇気氏(映像作家、宝塚大学メディア・デザイン学科講師)
 司会   岩本憲児氏(日本大学大学院芸術学研究科教授)
17:45-18:30 校舎見学ツアー

5月30日(日) 作品発表・研究発表・総会・懇親会
10:00-10:30
作品発表
 末岡一郎『Vladimír Kempský’s film カメラが生成する距離』
研究発表
 岩城覚久「身体=プロセッサ」
 牛田あや美「戦後の日本映画における評論・批評の系譜―1951年~1970年までの『キネマ旬報』を中心に―」
 成田雄太「活動弁士の歴史的役割の研究―日本における映画メディアのありかたをめぐって―」
 杉野健太郎「ドリーミング・アメリカ―『フィールド・オブ・ドリームス』とネイション」
 河合 明「ドゥルーズ著「シネマ」と仏教思想」
 研谷紀夫「伊藤博文肖像写真の持つ「個性」と人物イメージの形成」
10:40-11:10
作品発表
 水由 章『IN FOG』
研究発表
 清水ゆふき「ケイタイコミックにおける時間制御の方法論の構築」
 佐藤 洋「今村太平の除名問題について」
 大矢敦子「江戸期の時空間イメージの利用―旧派映画の<膝栗毛もの>の成立―映画『弥次喜多 東海道中膝栗毛』(1919年, 日活)及び関連作品を中心に―」
 徐 冬梅「グローバリゼーションと映画女優をめぐる社会現象―チャン・ツィイーを例に―」
 安部孝典「ジャン・ユスターシュ映画に見る表現上の特性」
 小出正志「「アニメーション史の終焉」再考」
 水野勝仁「間主観的な映像:ヒト|映像|データ」
11:20-11:50
作品発表
 太田 曜『SURF/LENGTH』
研究発表
 卞 在奎「シングル・チャンネルにおけるデジタル・パノラマ映像作品に関する制作研究」
 楊 紅雲「中国映画経営の現状においての政府方策に関する検討」
 坂本涼平「演劇の「再演出」としての舞台映像」
 原田健一「地域のなかの映像―平賀洗一の世界」
 呉 鴻「プロジェクションによる映像(光)の造形についての考察―モホイ・ナジからオラファー・エリアソンまで」
 植田 寛「高等教育における映像専門教育についての一考察」

12:00-13:00 昼食
13:00-13:30
作品発表
 風間 正、大津はつね『La Matière de Mémoire #2(記憶のマチエール2) <Dé-Sign 21>』
 ほしのあきら、横溝千夏『嘘すぎる 8ミリ 24コマ/秒 25分 ~フィルムのエロスを求めて~』
研究発表
 原 將人「身体と脳―アナログとデジタル―あるいは記憶と記録―フィルムとビデオ―に関して私が考えた二、三の事柄」
 広瀬 愛「映画「四谷怪談」考―中川信夫の実験的怪奇表現」
 尾鼻 崇「『ドラゴンクエスト』シリーズにみる「物語」とサウンドの相互作用」
 佐相 勉「「長回し」以前の溝口」
 鈴木啓文「運動―イマージュと観客性」
 板倉史明、松尾好洋「日本無声映画期における染色・調色の歴史と復元」
13:40-14:10
作品発表
 相内啓司『度一切空・PASSING―ALL IS NOTHING』
 井上貢一『Motion Square JS  Interactive Visual Toy』
研究発表
 沖 啓介「VJとオーディオ・ヴィジュアル・アートの歴史」
 岡村忠親「成瀬巳喜男 エモーションとコミュニケーション」
 柴田 崇「「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の快楽」
 飯岡詩朗「もう「父親」なんていらない?―『花嫁の父』と1950年代アメリカにおける「男らしさ」の再定義」
 齊藤直樹「時間軸データを用いた映像学集合知形成の提案」
 鈴木恒平「「明るい部屋」の幾何学―写真測量術の複眼的眼差しについて」
14:20-14:50
作品発表
 熊谷武洋『立ち止まる時間―スチル写真を素材とした時間経過の表現』
研究発表
 長谷川真、國重静司「標準的な立体3DCGコンテンツ制作を踏まえた“立体だからできる”映像デザインの検討と実践」
 小川佐和子「ヨーロッパ映画との対峙―対象初期日本映画のダイナミズム―」
 西村智弘「戦前の日本にはアニメーションという概念がなかった」
 洞ヶ瀬真人「米国映画産業の驚き―初期日本映画の中の「ハリウッド」―」
 高木ゆかり「I Love Lucyにみる変装ギャグ」
 伊集院敬行「『悪魔の涎』と『欲望』に見られる「無気味なもの」としての写真」
15:00-15:30
作品発表
 小林和彦『Yura-rail』
研究発表
 赤坂 勇「Webの進化は、MediaをどこまでAscensionさせていくのだろうか?―内外の広告映像作品から、AD2.0そしてその先を探る―」
 水口紀勢子「敗戦と母もの事情」
 苗 琳娟「A Proposition of web-based video editing simulator and its application for media literacy education」
 竹内正人「ロングショットと演技空間」
 長谷川詩織「Edward S. Curtisのエスノロジー―映画In the Land of the Head-Hunters(1914)におけるクワキウトル族の記録」
 添野 勉「明治期写真資料研究とオンライン公開写真資料の課題」

15:45-17:00 第37回通常総会
17:30-19:30 懇親会

5月31日(月) エクスカーション
・NHKアーカイブス(埼玉県川口市)
・SKIPシティ(Saitama Kawaguchi Intelligent Park)
・東京都写真美術館

以上
(会報第152号より抜粋)