第32回大会[2006年]報告

日本映像学会第32回大会
2006年6月10日‐6月12日
主催校:関西学院大学
実行委員長:永田彰三

 2006年度日本映像学会第32回全国大会は、6月10日(土)~12日(月)の間、関西学院大学文学部美学研究室の主催で行われました。例年と異なり、6月の2週目になり梅雨入りを気になりながらの大会でしたが、幸い天候にも恵まれました。
 関西学院大学で日本映像学会全国大会が開催されますのは、1980年(昭和55年)の第6回大会以来2度目でした。その時のメイン・テーマは《美と映像》で、映像研究を理論面から研究してゆく文学部美学科の小山義美先生のご提案でした。
 日本映像学会第32回大会概要集にも書かせていただきましたが、日本映像学会関西支部は、シナリオ作家であり、大阪芸術大学映像計画学科(現・映像学科)主任教授でした依田義賢先生と、関西学院大学教授として映像学を専門とされた小山義美先生によって形づくられました。大阪芸術大学が、宮川一夫先生や滝沢一先生をはじめ映画制作や映像批評の実践の方々を迎えて研究分野を形成したのに対し、関西学院大学文学部美学科は、映像研究を理論面から研究してゆきました。
 その当時の日本映像学会全国大会は、毎年、晩秋の11月中旬に行われていました。関西学院大学での第6回大会は、活発なシンポジウム、それに数少ないながらも熱気の満ちた研究発表と作品発表だったことが思いおこされます。それが四半世紀過ぎた今回は、日本映像学会創立以来、最多の研究発表と作品発表があり日本映像学会の発展に寄与できましたことを、準備と運営に携わった実行委員や美学専攻の大学院生と学生ともども喜んでおります。
 なお、大会参加者は、会員161名、一般38名でした。日本映像学会関西支部の重鎮でもあり、精神的支柱として慕われておられます今年92歳になられます杉山平一先生がお元気なお姿で参加していただけたことは、出席者一同何よりも元気付けられることとなりました。
 読売新聞や日本経済新聞などメディアによって日本映像学会の開催を知らせてもらったことにより、一般の方々にお越しいただけたことと思われます。皆様方のご協力のおかげと感謝いたしております。
 今回のメイン・テーマは、《アジア映画》といたしました。
 日本映像学会関西支部は、毎年夏に京都府立ゼミナールハウスにて、京都文化博物館のご協力を得て、夏期映画ゼミナールを27年の間、開催してきました。(今年は、8月2日~4日まで第28回目としての夏期映画ゼミナールを『成瀬巳喜男監督特集―生活者として生きる女たち』として行いました。)その長きにわたる日本映画の研究を礎にして、日本映画を中心に韓国映画や中国映画を考察できたらと願ったからであり、又、日本、中国、韓国を中心にした東アジアにおいて、映像表現や映像研究の分野での相互交流が盛んに行われている現状に沿ったものとして重要と思えたからです。
 韓国・漢陽大学校の崔泳吉吉教授に特別講演をお願いし、『最近の韓国における日本映画の受容』と題して講演していただきました。
 また、シンポジウムは、「『アジア映画』~中国・韓国・日本の最近の動向を中心として~」で、晏妮会員、張新民会員、ト煥模会員、金光煥会員、岩本憲児会員、山田幸平会員の方々によって活発に展開されました。特別講演ならびにシンポジウムの詳しい内容については、それぞれの報告に記させていただきます。
 「宝塚大劇場での宝塚歌劇観劇」のエクスカーションには、43名の参加がありました。宝塚大劇場での月組公演、ロック・オペラ『暁のローマ』とレビュー『レ・ビジュー・ブリアン』の観劇を楽しんだ後、歌劇事業部長・宝塚総支配人の植田孝氏のご厚意により宝塚大劇場舞台裏見学が実現いたしました。
 その後、宝塚歌劇団演出家として活躍され、現在は宝塚歌劇団名誉理事である本学出身の渡邊武雄氏による宝塚歌劇についての説明と昭和9年宝塚歌劇の東京進出にあたって小林一三氏が制作された無声映画の上映と解説がなされました。
 このような日本映像学会第32回大会でしたが、研究発表と作品発表に関して、日本映像学会として考えなければならない問題点もこの大会を通じて浮かび上がりました。
 日本映像学会のさらなる健全な発展のために、研究発表と作品発表の規則の明確化が急がれるように思われます。
 そのような問題点が残りましたが、日本映像学会第32回大会を盛況のうちに行えましたことは、皆様のご協力の賜物と深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
 また、至らないことも多々あり、ご迷惑をおかけいたしたことと存じますが、この場をお借りしてお詫び申しあげます。
(執筆・記録:永田彰三/会報第136号より)

プログラム
●6月10日(土)特別講演・シンポジウム・研究発表・作品発表
会場:関西学院大学文学部
11:20 受付
研究発表
11:50-
   前田 恵「シベリアの『東京物語』」
   福原正行「カイル・クーパーからのタイトルデザインの行方」
   平山憲司「東映任侠映画における視覚的象徴の優位性について」
12:30-
   桑原圭裕「伊丹万作作品における喜劇否定の視点」
   赤井敏夫「分節化された映像」
   石塚洋史「1970年前後の東宝アクション映画に関する考察」

13:05 昼食
14:00 当番校挨拶
14:05 特別講演「最近の韓国における日本映画の受容」 漢陽大学校教授 崔泳吉吉氏
15:20-17:50 シンポジウム「「アジア映画」~中国・韓国・日本の最近の動向を中心として~」

作品発表
14:00-17:00
   風間正+大津はつね(VISUAL BRAINS)「De Sign(脱記号)17~<Real World>~」
   奥野邦利「森のあった場所」
   熊谷武洋「Illuminatic Dance of Still Image  GOLアルゴリズムによる静止画像の動画像化」
   山口良臣「眼の記憶 Ver.1 瞳に映りこんだ像の記録」
   松村泰三「ピープショウ シミュレーションソフト「Digital Peep Show」」
   陳 維錚「流体都市」Fluid City オーバーヘッドプロジェクションによる流体のライブ映像」
   鄭 又龍「カクテルラウンジ cocktaillounge」
   李 容旭「lee++:Image—-Sculpture 映像と造形の狭間」

●6月11日(日)研究発表・作品発表・総会・懇親会
会場:関西学院大学文学部
研究発表
10:30
   中村聡史「クリント・イーストウッドにおける「メロドラマ」」
   今井隆介「Eisenstein on fire」
   木下耕介「スキーマ・コード・登場人物」
   ミツヨ・ワダ・マルシアーノ「映画におけるニュー・メディアの修辞学」
11:10
   溝渕久美子「「文芸映画」の政治学」
   萩原由加里「大正期の美工・絵専が漫画映画に与えた影響について」
   亀井克朗「侯孝賢の映画を観ることの意味」
   水野勝仁「スケッチパッドにおける、ライトペンとディスプレイ装置の役割」
11:50
   志村三代子「恋愛映画のイデオロギー」
   中野 泰「ディズニー・メディアミックス」
   金 麗實「「朝鮮映画」の発見と「韓国映画」の再発見」
   宮原美佳「体験型映像編集ワークショップの実践」
12:30 昼食(理事会)
13:30
   千葉久美子「『浮雲』男女はなぜふらふら歩くか」
   横田正夫「アニメーションと食表現」
   荒川美世子「『岩波写真文庫』における名取洋之助の編集について」
   井上貢一「映像断片の継時的郡化に関わる「タイトル」の効果」
14:10
   大久保清朗「寄生する映画」
   小出正志「アニメーション映画・映像における画像と運動」
   佐々木悠介「ポストモダン期のロマン=フォトと、フォトジャーナリズムの系譜」
   純丘曜彰「テレビ番組はなぜ「くだらない」のか?」
14:50
   山下史朗「ホーム:スティーブン・スピルバーグに継承されるジョン・フォードとフランク・キャプラの傾向と差異に関する考察」
   森友令子「CGアニメーション作品における光と色に関する考察」
   山本佐恵「ニューヨーク万国博覧会(1939)日本館における映画について」
   杉田このみ「映像表現の教育的理論の研究と実践の展開」
15:30
   今村純子「映像倫理学の可能性」
   篠木 涼「初期の映画理論とその受容についての一考察」
   前川道博「オンデマンド型オーサリングモデル「モジュールコンテンツ」の提案」
16:10 休憩
16:30 第33回通常総会
17:30 懇親会(関西学院会館)

作品発表 11:00-16:00(作品・会場は前日に同じ)

映像表現研究会
11:10-12:30 映像展プログラム1
13:30-14:50 映像展プログラム2
14:50-シンポジウム「いま映像表現になにが求められているか?」

●6月12日(月)エクスカーション
宝塚大劇場での宝塚歌劇観劇
時間 13:00~17:30
演目 月組公演 ロック・オペラ『暁のローマ』─「ジュリアス・シーザー」より─
    レビュー『レ・ビジュー・ブリアン』─きらめく宝石の詩─

以上