第34回大会[2008年]報告

日本映像学会第34回大会
2008年6月7日-9日
主催校:京都精華大学
実行委員長:伊奈新祐

 2008年6月7日(土)~9日(月)、日本映像学会第34回大会が京都市北部の岩倉に位置する京都精華大学にて開催されました。梅雨入りの時期でもありましたが、何とか天候に恵まれた中で運営できました。
 今回の大会テーマを「“実験映像”のいま」に設定しました。昨年の女子美術大学でのテーマに“メディアアート”の言葉が含まれておりましたが、もう一歩踏み込んでメディアアートとしての映像表現の世界である「実験映像(experimental film & video)」に焦点を絞ってみました。われわれ「京都精華大学芸術学部映像コース」の特色を反映させることにしました。
 特別講演では、ニューメディア時代における実験映像の在り方を検討すべく、レフ・マノヴィッチ氏による講演「ハイブリッド・メディアの理解~映像文化における隠れた変革~」を予定し、シンポジウムでは、海外の実験映像系フェスティバル(ドイツ、クロアチア、韓国)のディレクターを招いて「映像表現における実験性」のテーマで議論する場を計画しました。残念ながら、大会直前にマノヴィッチ氏より緊急事態のため来日できなくなった旨の連絡を受け、特別講演は実現しませんでした。期待された多くの会員のために急遽、講演内容のベースとなる予定であった論文の翻訳(一部)を行って、当日配布させていただきました。シンポジウムは、当初の予定より約1時間前倒しで開始し、作品紹介を含めて各パネラーの関わるフェスティバルの動向報告の後、意見交換に入りました。シンポジウムに関しては、担当の相内啓司・副委員長による別項(会報第144号)の報告を参照してください。
 今回の大会参加者数は(会員(173名)、一般(19名)、学生(42名))、実行委員会の予測以上の参加者があり、大会当日の受付では多少会員諸氏にご迷惑をおかけした点があったかもしれません。事前に参加申込を受けていない当日参加の会員に対する受付時のスムーズな登録処理については、今後の検討課題として残りました。今回の発表件数も予想以上に多くの申込みがありました。一部、発表辞退やスケジュール上の問題で発表キャンセルもありましたが、合計53件(研究発表34件、作品発表19件)の発表が行われました。7日は4会場(研究発表のみ)で、8日は7会場(4会場:研究発表、3会場:作品発表)に分かれて実施されました(下記の発表スケジュール・プログラムを参照)。作品発表は口頭発表の会場(講義棟・黎明館)に隣接する情報館メディアセンターのホールを中心に、ビデオ作品(DVD, HD-DVD)、フィルム作品、インタラクティブなCG作品、インスタレーション作品が上映展示されました。
 今回より発表に関して大きく変わった点は、以下の2点です。
1)発表申込時点で理事会にて内容のチェックが行われたこと(作品発表に関しては形式のみ)。
2)作品発表も“口頭発表として通常の研究発表と同じ形式(25分発表+5分質疑)”で実施したこと(発表時に作品の上映を含むが、別途、上映展示の場を設ける)。
 一部作品発表者に発表形式の認識不足も見受けられましたが、研究発表・作品発表ともに概ね好評であったと思われます。今後の大会でも継続実施されることが望まれます。
 すべての発表の終了後に「第35回通常総会」が開催されました。理事改選の選挙結果の報告後、新会長などの選出が行われ、新しい理事会がスタートしました。総会後の「懇親会」において新旧会長による(八木信忠新会長、波多野哲朗前会長)の挨拶や次期大会の開催校である名古屋大学の茂登山清文会員による挨拶が行われました。また一般参加した南カリフォルニア大学のリピット水田氏によってアメリカの映像関係の学会が来年東京での開催を予定していることが紹介されました。
 最終日9日の「エクスカーション」(19名の参加)では、午前中に京都市の中心部にある「京都国際マンガミュージアム」(京都市と京都精華大学による共同事業)を見学しました。同研究センターの研究員による館内の案内(書庫、展示室、企画展)に引き続き、研修室にて参加会員からの様々な質問に対して研究員と事務次長による丁寧な解説が行われました。午後は、バスで移動して京都府南部(京阪奈)の「国立国会図書館関西館」を見学しました。アジア関連の資料と国内の博士論文の現物を手に取って見るこちができる特色を持つ関西館ですが、書庫のシステムなど最新の設備をもつ図書館の舞台裏を中心に約1時間の見学コースを体験しました。夕方には京都市内の京都国際マンガミュージアムに戻り、エクスカーションを終了しました。引き続き同ミュージアムの多目的ホールにて午後6時より“日本最古の劇場公開アニメーション作品『なまくら刀』と『浦島太郎』の上映とその発見の意義”と題して松本夏樹会員と渡辺泰氏による講演と作品上映が行われました(関西支部企画)。手回しのプロジェクターを操作しながら、弁士を兼ねた演者による昔の上演風景を想像させるパフォーマンスは、大変興味深いものでした。
 以上をもって大会3日間のスケジュールを何とか無事終了することができました。会員各位のご支援、ご協力にあらためて感謝申し上げます。

実行委員会メンバー:(委員長)伊奈新祐、(副委員長)相内啓司、(委員)平野砂峰旅、佐藤守弘、前田茂、林圭太、陳維探錚、呉鴻、鄭東振、卞在奎、孟祥宇。

大会プログラム
6月7日(土) 研究発表・シンポジウム
研究発表
10:30-11:00
 大矢敦子「松之助映画の興行形態における相違―浅草と新京極を通して―」
 小林 杏「死の記念と写真行為―メキシコ・死児写真の事例から」
11:10-11:40
 中村聡史「大和屋竺作品における「ハードボイルド」スタイル―『荒野のダッチワイフ』を中心として―」
 鈴木恒平「「ベッヒャー派」の巨大写真―写真をめぐる幻想についての一考察」
 尾鼻 崇「家庭用ビデオゲームにおける「音楽」の誕生」
 今井隆介「Voice in the Shell―アニメーションにおける声と身体についての試論」
11:50-12:20
 大久保清朗「水木洋子の作劇術『浮雲』箱書と直筆原稿を手がかりとして」
 山口和子「写真と芸術」
 野地朱眞「広視野表示装置のための映像制作の試み―CAVE型マルチディスプレイとCG動画」
 池側隆之「学生アニメーションにみるコミュニケーションのカタチ」

12:20-13:30 昼食
14:30-18:00 司会:伊奈新祐、当番校挨拶:片桐充(京都精華大学理事長)
         シンポジウム「映像表現における実験性」
         パネラー:アルフレッド・ロタート(「EMAF(ドイツ)」ディレクター)
               マリナ・コヅル(「25FPS(クロアチア)」ディレクター)
               パク・ドンヒョン(「Exis(韓国)」ディレクター)
               河合政之(映像作家・ビデオアートセンター東京 元代表)
         問題提起者:相内啓司(京都精華大学芸術学部教授)

6月8日(日) 研究発表・作品発表・通常総会・懇親会
10:30-11:00
研究発表
 田中晋平「『ユリシーズの瞳』における共同性と眼差しの問題―重層的な構造の分析」
 百束朋浩「映像の技術的制約性と表現形式への影響―現代のデジタル技術的所産としての映像芸術の質的な変容―」
作品発表
 田中綾子『8丁目』

11:10-11:40
研究発表
 春日太一「製作者としての勝新太郎の考察―テレビシリーズ『新・座頭市』における理想と現実」
 仁井千絵「ミュージカル映画に対するラジオの影響―1930年代初頭のアメリカにおける娯楽産業との関連で―」
 八尾里絵子「視聴覚マッピング―視聴覚の相互作用を支援するツールとしてのデジタルコンテンツ」
 水野勝仁「インターフェイスのデモ映像に映る「手」」
作品発表
 黒岩俊哉『resonance#1』
 奥野邦利『喪失の記憶』
11:50-12:20
研究発表
 石塚洋史「大映『兵隊やくざ』シリーズに関する考察」
 松谷容作「ぼやけたイメージ、過剰なイメージ―「アトラクション」「物語」に還元されない初期映画のイメージ経験」
 竹林紀雄「テレビ・ドキュメンタリーの課題と可能性―テレビ番組の映像表現における「虚構」と「現実」の境界についての一考察」
 長船恒利「プラネタリウム・ドーム・シアターで複合メディア映像実験」
作品発表
 佐藤英里子『Hands – “passengers here”[ecriture: etude04]』
 大津はつね+風間正『De-sign 19: Void Line “空白のライン”』

12:20-13:30 昼食
13:30-14:00
研究発表
 洞ヶ瀬真人「日本映画における監督言説の形成―言説から考える“ディレクター・システム”」
 長谷川功一「機械と運動:バスター・キートンの自動車ギャグについての考察」
 脇リギオ「CIE L*b*b*表色系による新・色覚判定システムの提案―色・デバイス色再現同様“色覚は測れる!”」
 森友令子「3DCGアニメーション作品における「線」に関する考察―虚構空間における「リアルさ」とは」
作品発表
 井上貢一『Motion Cube 2008―3-Dimentional Visual Toy―』
 大城俊郎『fragment 大きな物語との接触』
 太田 曜『INCLINED HORIZON – PILGRIMAGE of TIME』
14:10-14:40
研究発表
 御園生涼子「サスペンスと越境―1930年代小津安二郎の犯罪メロドラマと近代都市の境界」
 森村麻紀「初期映画と身体鍛錬―アメリカ初期映画における女性の身体鍛錬表象を中心に」
 河合 明「ポスト構造主義は仏教か?」
 小出正志「アニメーションの実験性あるいは実験アニメーションに関する一考察」
作品発表
 加藤良将『ROKURO 回転体による三次元表現』
 高山隆一『来夏』
 末岡一郎『Portland, Oregon 1931 忘却の映画史とその美学再考』
14:40-15:00 休憩
15:00-15:30
研究発表
 篠木 涼「フィクションのメイク・ビリーブ経験と映像メディア」
 上田 学「映画常設館の興行的系譜―浅草公園六区の事例から―」
 高橋光輝「フィルム・スクールの誕生過程について」
作品発表
 中嶋健明『爆心の町広島(ヒロシマ)CG復元―9年間に渡る復元の記録』
 池田光恵『「ぐるんぐるん」上演記録』
 芦谷耕平『on the Glistening Snowfield』
 水由 章『「瞬息」シリーズ(瞬息1、瞬息4、瞬息5、瞬息8、他)』
15:40-16:10
研究発表
 志村三代子「映画女優とスキャンダル―「美しき鷹」と志賀暁子問題をめぐって」
 楊 紅雲「邦画製作におけるTV対応策の変遷―東映映画経営を中心に」
 北市記子「メディアアートのミニマリズム的表現手法に関する考察」
作品発表
 熊谷武洋『Peace Maker』
 李 容旭『For 「Jhal-ga Uhn-ni」―異郷を生きた魂への共振』
 木村和代『「act blank」―不可視時間と可視空間の交差における身体性』
 ほしのあきら『後ろ影が聞こえる』

16:25-17:30 第35回通常総会
17:45-19:30 懇親会

6月9日(月) エクスカーション
京都国際マンガミュージアム
国立国会図書館関西館

以上
(会報第144号より抜粋)