第40回大会[2014年]報告

日本映像学会第40回大会
2014年6月7-9日
主催校:沖縄県立芸術大学
実行委員長:仲本賢

・開催の経緯と運営体制
 本学会の記念すべき第40会大会を沖縄で開催できたことを大変光栄に思い、またうれしく思います。しかしながらその道のりは険しく困難なものであったことも記載しておかなくてはなりません。
 まず、第38回大会(九大)の時に会長であった豊原正智会長から私、仲本賢会員へ大会開催の簡単な打診がありました。豊原会長は私の大学(大阪芸術大学・芸術計画学科)時代の卒業論文担当であり恩師でしたので、即答でお断りすることもできず、帰郷して仲間達と相談しますと約束し、沖縄に戻ったことを憶えています。
 後に、沖縄に戻った私は、地元にはたった二人しかいないもう一人の会員である東英児会員(与那原小学校情報教育対応支援員)と相談、また私の職場、沖縄県立芸術大学デザイン専攻の同僚達に相談いたしました。900人近い会員数の大きな学会の大会を開催できる自信はありませんでしたが、私と会長との縁、同僚や会員達からの協力と励まし、また私が本学会の在籍中に行われる唯一の大会になるであろうということ等いろいろと考えた結果、やってみようということになりました。
 第39回大会(東京造形大)開催の前後に、会長から「来年の日本映像学会の大会を仲本さんの沖縄県立芸術大学でお引き受けいただけることは可能でしょうか。ご検討いただければありがたいです。今度の大会は、東京造形大学で、東部支部関係ですが、来年は東部支部以外で、が慣例となっています。」(2014.05.25)という正式な打診がありましたので、承諾(2014.05.27)。偶然にも私の50歳の誕生日でした。
 沖縄に戻ってからは、実行委員会の設立、大会委員長・仲本賢、副委員長・東英児、以降デザイン専攻主任・座波嘉克教授、美術工芸学部長・北村義典教授ほか全9名の委員を揃えました。また、実行委員のうち4名を映像学会の新会員として迎えていただきました。
 その後は、大会本部へ直接出向いての数回の打合せとEメールでの200件を超える打合せがあり、大会が実現いたしました。

・大会テーマ
 初期の打合せの中で、「せっかく沖縄で開催するのであるから沖縄らしい大会テーマが良いのでは」という本部からの助言もあり、テーマを「南島、内なる現実、外からの幻想」としました。沖縄は中央から遠くは慣れた遠隔地にあるために、何かと間違った情報やイメージが伝わり易いのではということ。また、気候的な要因(例えば日本で唯一の亜熱帯地域)で映像制作をする際に経済的に有利、不利なところがあるだろうという仮説の元に、映像の話題が作れるのではないかというもくろみがあったのです。

・プレイベント/大会記念上映会
 大会に先立って簡単なプレイベントを行いました。
 沖縄フィルムオフィスが主催して制作した山城知佳子/砂川敦志・監督による琉球歌劇を織り込んだ短編映画「うんじゅぬ花道」(2013/DVD20分)の上映と劇中に出演された神谷武史さん(組踊実演家)他7名による琉球舞踊の上演(20分)は、大会を盛り上げるものであると同時に、今回のテーマを考えるきっかけ作りでもありました。

・基調講演「ロケーション支援の需要と可能性」中山睦美
 美術工芸学部長、北村義典教授(大会実行委員)が大会開会の挨拶をしたあと、大会テーマに合わせて基調講演を「ロケーション支援の需要と可能性」とし、ocvb沖縄フィルムオフィスの中山睦美氏にお願いしました。
 沖縄フィルムオフィスは創設15年目になりますが、主に観光産業が中心の県にあって、それに関連した事業として映像産業を考えています。それはこのオフィス自体が沖縄観光コンベンションビューロー(会議局)という組織の中にあることからも分かるのですが、映像を通じて沖縄の魅力を県外、海外に発信しようという取り組みです。仕事は、ロケの支援、作品のプロモーション活動、県内映像産業の振興の3本柱で、市町村、観光協会、民間映像制作会社、ロケーションコーディネート協会等と連携を取りながら活動しているということです。
 講演の最後に客席から「県産の映画がこれだけ多い地域は少ないが、財政面はどうなっているのだろうか」という質問がなされましたが、これに中山氏は「金銭的には厳しい。特に映画はこんなにお金がかかるものなので、いろいろな公的機関から出される補助金の中で、海外コンテンツサポート事業や沖縄県産業振興公社、沖縄県文化協会等と連携しつつ行っている」とのことでした。

・シンポジウム
 基調講演に引き続き、シンポジウムを行いました。テーマは「南島、内なる現実、外からの幻想~映像になった沖縄、内から外から」で、沖縄で様々映像が撮られる理由や、発信される理由等とその現状について語っていただきました。
 出演者は映像作家で雑誌編集者の仲里効氏、映画「アンを探して」監督の宮平貴子氏、映画「サルサとチャンプルー」監督の波多野哲朗氏、ビデオ・アーティストの山城知佳子氏、短編映画「うんじゅぬ花道」監督の砂川敦志氏、映画研究、アメリカ研究の名嘉山リサ氏、沖縄テレビ・プロデューサーの山里孫存氏、映画「パイナップル・ツアーズ」監督の真喜屋力氏でした。
 それぞれの立場で、この島がどう見えるか、これまでどう撮られてきたのかを語り、また作家の方々にはどのように撮ってきたのかを語っていただきました。中でも波多野氏の言われた、「外から来た人間ってのはどうせ幻影である、幻想だ、というふうな一種の差別的なイデオロギーを感じるのです。」という言葉で、「その内と外という区分が、非常に複雑な問題としてあると思う」との指摘がありました。今回のテーマが問題に対する真摯さや丁寧さよりも、分かり易い構図にしている点への厳しい示唆でした。しかし、外から内からという問題は現に存在するということでもありました。
 最中に歴史的なアメリカが制作した白黒映画の一部がかかったり、沖縄テレビで制作した歴史的なドキュメンタリー映像が流れたりと、今までの大会では見ない様な映像がいくつか上映されました。
 8名のパネリストがお話しするには時間があまりにも短く、観客からの質問もあまり受けることが出来なかったことが、最大の反省点でした。

・研究発表、作品発表
 初日は午後16時10分からはABCDEFの6会場に分かれて研究発表(7題)、作品発表(5題)を行いました。
 研究発表者の一人が発表前に倒れる(気分が悪くなる)件があり、近くの病院に搬送。迅速な対応で事なきを得ました。
 第2日目の6月8日(日)は午前9時30分より大会受付開始。午前10時00分から6会場に別れて研究発表(32題)、作品発表(8題及び別プログラム2題)を行いました。
 また、最終回に発表する予定であった発表者を予備の会場に移したところ、会場に参加者が思った以上に集まらずご迷惑をおかけしました。これは主催者側の判断ミスであったかもしれません。
 終了時刻午後18時40分は近年の大会では稀な遅さで、早くした方が良いという意見と、この方法でより多くの研究発表が聞けて良かったという意見が聞かれました。

・懇親会
 初日の午後18時30分から、当蔵キャンパス中庭において懇親会を開催しました。100名を超える参加者があり、開催校代表挨拶等の後、食事と飲み物で会を楽しみました。屋外でのパーティーには少し難点もありました。例えば途中から小雨が降る等、天気に左右されるところです。しかし、沖縄芸大の教員、学生で参加者の皆さんをおもてなししたいという気持ちが伝わったのか、お酒等の飲み物、パイナップル等のフルーツ類が大変好評でした。来年度にどこで開催されるかは明かされませんでしたが、交渉進行中ということで、午後20時30分懇親会を終了しました。

・エクスカーション
 第3日目の6月9日(月)はエクスカーション。当初20名程度の定員で、下回れば開催中止の予定でありましたが、主催者(実行委員会)側の要望とお願いする先方(フィルムオフィス)のご好意で参加者7名という少人数で決行しました。
 午前9時30分、仲本(実行委員長)の運転で首里当蔵キャンパスを出発。沖縄市KOZAフィルムオフィス(観光協会)到着後、短編映画鑑賞。コザの映画ロケ地(典型的な沖縄中部地方の街並)を見学。昼食に劇中に出てきた「Aランチ」定食を食しました。沖縄の映像制作の現場についてお聞きした後、コザの街を後にしました。その後那覇空港、国際通りに参加者の皆さんをお送りしてエクスカーションは無事終了しました。コンパクトで凝縮した楽しいプログラムでしたが、残念ながら映像学会の大会プログラムとしては、新規性と専門性が無く、有意義なプログラムだったとはいえませんでした。

 3日間を通じて大会参加者は、会員120名、一般12名、学生10名、合計142名でした。
 映像作品発表の部屋利用者の概算(のべ)は、
      E会場   F会場  G会場
 6月7日  31名  152名   63名
 6月8日 105名  554名    67名
 合計   136名  706名  130名
 研究発表の参加者は数えられませんが、最大集容人数はA 会場(301教室/62人)、B会場(302教室/96人)、C会場(303教室/48人)、D会場(PC教室/35人)で、合計241人。研究発表は全13コマでした。
 エクスカーション参加者は7名でした。

 予算決算につきましては下記別表(会報第168号)をご覧いただきたいですが、大会準備金及び大会参加費用等の総計と使用した金額との差額はほとんどありません。

反省事項:
・本地域で会員が少なく、大会実行委員会のメンバーが大会の事を詳しく理解、把握していなかった事。次回の運営委員会の際には前回(本委員会)と打ち合わせる機会が1、2回程度あれば良いと思います。
・インターネット、Eメール等の運営に詳しい者が数名必要であった。そのため連絡等が滞り参加者の皆様にご迷惑とご心配をおかけしました。

 以上、簡単ではありますが、大会報告をさせていただきます。大会参加者の皆様のご協力に実行委員会一同、感謝申し上げます。

 

大会プログラム

6月7日(土)

10:30 参加受付開始
11:00 大会記念上映会及び琉球舞踊
12:00 昼食
13:00-13:10 開会の辞・開会校挨拶
13:10-14:00 基調講演 「ロケーション支援の需要と可能性」中山睦美(一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー 沖縄フィルムオフィス)
14:10-16:00 シンポジウム「南島、内なる現実、外からの幻想~映像になった沖縄、内から外から」
 パネリスト:仲里効(映像作家・雑誌編集者)、宮平貴子(映画監督)、波多野哲朗(東京造形大学名誉教授)、山城知佳子(ビデオ・アーティスト)、砂川敦志(映画監督)、名嘉山リサ(沖縄工業高等専門学校講師・映画研究・アメリカ研究)、山里孫存(沖縄テレビプロデューサー)、真喜屋力(映画監督)
 司会:仲本賢(沖縄県立芸術大学教授)

16:10-16:40
研究発表
 岡田彩希子・新宮一成「意識におけるイメージと対象」
 志村三代子「冷戦期ハリウッド映画における日系人表象―『二世部隊』(1951)を中心に」
 楠 かつのり「ウェアラブルカメラを使った番組制作 機動性あるカメラによって五感を刺激する映像表現」
作品発表
 小林和彦「Rubbing crook」
 太田 曜「映画 ULTRAMARINE」

16:50-17:20
研究発表
 羽鳥隆英「新国劇の映像学 ー 新宿コマ劇場の「連鎖劇」」
 百束朋浩「自動アーカイブシステムを目的とした動画像の質的評価のモデル化」
作品発表
 風間 正・大津はつね「Matière de Mémoire # 6 記憶のマチエール6」

17:30-18:00
研究発表
 河野真理江「『君の名は』論―「すれ違い」のメロドラマにおける通俗性とマゾヒズム」
 飯岡詩朗「ハッピー・エンディングとは何(であった)か 1950年代アメリカのファミリー・ドラマにおける「幸福」」
作品発表
 萩原朔美・石原康臣「目の中の水 Ⅲ ― 秋丸の家出」
 水由 章「BEYOND CONTROL― 映画フィルムで作品製作を続けるということ」

18:30-20:00 懇親会

 

6月8日(日)

09:30 参加受付開始

10:00-10:30
研究発表
 中村秀之「リュミエールなきシネマ― ドゥルーズ『シネマ』におけるショット概念の批判的考察」
 板倉史明・松尾好洋「日本の撮影所における現像部の役割と現像プロセスの検証― 新興キネマ現像部資料を読み解く」
 横田 洋「明治期の映画取り締まりについて」
作品発表
 黒岩俊哉「実験映像作品「nHr ̊2」」
 ほしのあきら・横溝千夏「作品『目を開ける』― 記憶の再構成」

10:40-11:10
研究発表
 山本祐輝「『ボウイ&キーチ』(1974)のラジオ音声―「物語世界」概念の再検討に向けて」
 伊奈新祐「アーニー・コヴァックス( Ernie Kovacs :1919-62 )とヴィデオ・アート」
 谷口紀枝「『京屋襟店』(1922年) にみる日活向島撮影所の芸術的世界観」
 榎本千賀子「新潟県南魚沼市六日町の今成家コレクションに見る明治初頭の写真受容― 演劇的写真の成立基盤と「時間」表象に注目して」
作品発表
 井上貢一「Motion Cube RTC― Interactive Visual Toy」

10:40-11:50 アナログメディア研究会作品上映

11:20-11:50
研究発表
 三輪健太朗「クロノフォトグラフィと近代マンガ― 規律と抵抗、運動と変化、可逆性と不可逆性」
 仁井田千絵「映画とレヴュー― 昭和初期の映画興行にみられるヴァラエティ―」
 川崎佳哉「『偉大なるアンバーソン家の人々』における亡霊たちの視線」
 大城俊郎「4KRAWワークフロー紹介― 実制作の観点から」
作品発表
 栗原康行「「女の子ごっこ」(性同一性障害の映画)― 性同一性障害をテーマにした映画作品」

12:00-13:00 昼食/理事会
13:00-14:00 第41回通常総会

14:10-14:40
研究発表
 泉 順太郎「ドゥルーズ『シネマ』における記号の問題― 映画の(非)記憶という側面から」
 北市記子「イメージの桃源郷ー 山口勝弘とナムジュン・パイクの晩年における創造的行為」
 木原圭翔「『ヒッチコック劇場』としての『サイコ』― ヒッチコックによる規律訓練と環境の形成」
作品発表
 野村建太「極私的アニメーション入門―「日記映画」をアニメーションにする試み」

14:50-15:20
研究発表
 溝渕久美子「「映画」を歌う 「日本『映画の歌』」懸賞募集と戦時下における映画をめぐる公共性」
 瀧 健太郎「パブリック・プロジェクションにみる映像による都市への介入― 社会アクションとしての映像体験の可能性」
 東 志保「クリス・マルケルの『笑う猫事件』と「漂流」の詩学」
作品発表
 奥野邦利「鏡の鏡」

15:30-16:00
研究発表
 宮田徹也「映像が成し得た/得ない不可能性と可能性― 大浦信行の芸術の本質を探る―」
 篠木 涼「F・B・ギルブレスとL・M・ギルブレスの動作研究における視覚化の問題」
 藤田純一「エディスン・キネトスコープ/キネトグラフの開発― セルロイド・ロール・フィルムの採用をめぐって」
作品発表
 杉田このみ「原発被災地になった故郷への旅 ̶ 福島県南相馬市 ̶」

16:10-16:40
研究発表
 森友令子「『白蛇伝』と『猿飛佐助』『西遊記』による背景描写「驚異的描写」について」
 草原真知子「大衆文化に見る「写真」の表象― 錦絵、引札、着物柄、幻燈」
 大久保遼「小さな映像の生態系― ビッグデータ時代における小規模デジタルアーカイブの意義」
作品発表
 前田 真二郎「日々 ”hibi” AUG 6 years mix(習作)̶ 即興映画の連作を再構成する試み」

16:50-17:20
研究発表
 中村聡史「日本映画における漫画と映画の関係性に関する一考察」
 瀧波 崇「映画における視点と語り手」
 紙屋牧子「『傷だらけの男』(1950年、マキノ正博) におけるアメリカニズムをめぐる葛藤」

16:50-18:00 映像表現研究会[ISMIE]作品上映

17:30-18:00
研究発表
 水野雄太「映像としてのGoogle Maps― 地図・映像・インターネットが交差する映像環境の考察」
 青山太郎「記憶の多様性をめぐる映像表現に関する考察―「震災」という出来事をいかに物語ることができるか」
 小出正志「カテゴリーとしての東アジアアニメーション― アニメーションの教育と研究における東アジアの視点」

18:10-18:40
研究発表
 芦谷耕平「TVアニメーション『ジョジョの奇妙な冒険』『ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース』における作画面からの一考察」
 倉田麻里絵「J.ドゥミの固執とM.ルグランの対応― 音楽映画の表現についての一考察―」
 セハンボリガ「ナム・ジュン・パイクにおけるモンゴルへのオマージュとシャーマン世界」

 

6月9日(月) エクスカーション 沖縄市KOZAフィルムオフィス訪問

 

会報第168号より抜粋)