第43回大会[2017年]報告

日本映像学会第43回大会
2017年6月3-4日
主催校:神戸大学
実行委員長:前川修

日本映像学会第43回大会報告
大会実行委員長 前川修

開催の経緯
 昨年の大会のひと月前、国際文化学部の板倉さんを介して武田潔会長から次回の開催校を引き受けてもらえないかとのご依頼をいただきました。寝耳に水でしたが、どうやら関西の各理事にも話は届いており、協力の申し出も次々といただき、何より板倉さんの笑顔にほだされて…(外堀は埋まっていたわけです)、お話を受けることにいたしました。
 とはいえ、多くの問題がありました。まず本学に映像を専門とする教員が少ない、直接大会運営にあたる映像学会員が2名しかいない、そのうち全国規模大会の開催経験があるのは1名しかいない、大学院生の数が足りない、十分な映像設備を備えた、適当な広さの教室が足りない、開催が地方都市であるため参加人数が多くを見込めない、それゆえに参加人数が読みにくい等々、問題は山積みでした。
 しかし、研究を志す学生にとって、こうした大会運営が意義をもっていることは確かです。全国規模の大会をどのように構想を練って実現していくのか、そうしたことを企画の段階から準備をすることは、もしかすると研究に将来従事するかもしれない学生にとって重要です。そうしたわけで彼ら/彼女たちにスタートからすべて関わってもらいながら組み立てる作業を昨年7月から始めました。

運営体制
 7月には会長直々に神戸へお越しいただいて大会企画案を検討し、9月には実行委員会の打診を済ませ、10月初旬に理事会での承認を受け、関西のほとんどの理事にご協力をいただく体制が整いました。実行委員長は前川、副委員長は板倉が引き受け、3月の実行委員会で大会の枠組みはほぼ決定しました。この間、進捗状況をそのつど報告した理事会(10月、12月、3月、5月)がペースメーカーとなって順次、大会の詳細を決定して参りました。

大会テーマ
 さて、今回の大会テーマは「宇宙×映像」でした。他のテーマの可能性もありましたが、最終的には宇宙に決定しました。第一通信でも書きましたが、背景には昨今の宇宙ブームがあります。映画を問わず、さまざまなメディアで宇宙を主題や舞台にしたテクストを巡っての議論は活況を呈していますし、実際の宇宙活動を行っているNASAやJAXAの報告からは、宇宙ステーション滞在型の実験で、理系のみならず人文系との共同研究もこの10年間積み重ねられてきていることがわかります。あるいは、映像史の文脈では、「宇宙映像」という宇宙を対象にした映像をひとくくりにして映像の歴史を顧みるならば、過去から現在に至るまで宇宙映像というリミットにおいて映像の本質がつねに試されていたこともわかります。もちろん、こうしたテーマ設定は、まったくのゼロからのスタートというよりは、すでに国際文化学部が進めていたJAXAとの共同プログラムなど、いろいろな中継点もあったわけです。しかし、何よりもこのテーマの立ち上げの際に念頭にあったのは、昨今大学でのシンポジウムに求められる様々な小さな文脈を取っ払ってしまおうということでした。つまり、シンポジウムらしく、ともかく誰にとっても同じ距離にある遠い存在である「宇宙」というキーワードに「映像」という語をかけあわせ、その収斂点だけで学会内外のひとたちに集結してもらい、それで各々のアプローチをぶつけて議論するという、シンポジウム本来の在り方がそもそも面白いのではないか、そう考えたわけです。

基調講演とシンポジウム
 この項目については、板倉副委員長も報告されるので、簡単に述べておきます。
 何よりもこのテーマですと、まずはJAXAの協力をあおぐしかありません。JAXA広報と事前に調整させていただいて柳川孝二氏をご推薦いただきました。柳川氏はご著書のみならず、JAXAの活動についてさまざまな啓蒙活動を展開してこられた、今回の基調講演にうってつけの方です。何よりもお話をうかがって興味深かったのは、わたしたちの映像圏のほとんどが宇宙を介しているということ、あるいは、宇宙活動を最前線で推し進めてこられた方々の身体にどこか映像の記憶が裏地のようにはりついているということでした。
 基調講演を受けたシンポジウムのパネリストとして、先の柳川さんともお仕事をされていた古賀一男氏にまずは依頼をいたしました。古賀氏は、視覚心理学の立場から宇宙における人間の視覚を長年研究しつづけられており、その中心にある外宇宙での人間の生理的機構の変化が及ぼす視知覚への影響は、おそらく映像研究の前提となる見る者=観る者という人間自体が再度宇宙を梃に鋳直されるような広範な問題系をわたしたちに与えてくれます。残念ながら時間制限のためにトピックすべてをお話していただくことは適わなかったのですが、それでも参加者には十分なインパクトのあるお話になったと推察しています。
 細馬宏通氏にもご登壇をお願いしました。細馬氏の活動の場は人間行動学、ジェスチャー分析なのですが、その活動は、会員の皆さんもご存知のように、ありとあらゆる映像文化に及んでいます。今回も、音を起点にしながらわたしたちが相互行為的に宇宙での「環世界」を想像する仕組みを、『ゼロ・グラヴィティ』を導きにしながら話を展開されました。宇宙飛行士の「バイザー」という半透過的である界面がもたらす隙間が、実は宇宙でのわたしたちの想像力の余地になっているという刺激的論点もありました。
 このお二人に対して学会員からの応答として、北野圭介会員、畠山宗明会員にもご登壇をお願いいたしました。北野氏は言うまでもなく、現在、映像をめぐる言説の布置の地殻変動を精緻にマッピングしていく作業を進められており、そうした現在の映像研究の最前線から、宇宙映像をめぐる人間と世界の関わりの在り方の変容について刺激的なお話をしていただきました。宇宙映像とはこうした映像圏の現在を語るうえで必須の参照項であることも、北野氏のお話から明快に理解することができました。
 畠山氏には、現在に至るまでの宇宙映画の系譜が現在では、デジタル技術環境における係争点としての身体を起点とし、そこで描きだされる空間表象自体が触覚的情動的な複数の点から構成されるような世界になっているのではないかという問題提起をいただきました。
 皆さんの報告は―最初から予想はしていたのですが―十分な時間がなく、その後のディスカッションもかなりの時間制限がありましたので、聴衆の皆様にはもう少し議論を聞きたいという思いもあったかもしれません。この点はすべて企画責任者の責任です。ご容赦ください。とはいえ、幸いというか、今回のシンポジウムの企画は、宇宙を主題にした前川の科研で引き継ぎ、継続的に議論を進め、皆様方にその展開の様子をお伝えることができると思っております。

研究発表と作品発表
 研究/作品発表の総数が52(作品発表8、研究発表44)と、例年通りの50を超える発表を8つの会場において同時進行で行いました。座長の先生方には適切に司会進行をしていただき、ありがとうございました。二日間の参加者は161名、うち学会員は147名、一般参加8名、学生参加6名という内訳になります。地方の大会としてはかなりの参加者の数になりました。
 なお、研究発表も作品発表も事前に機材をうかがい、万全の準備態勢であたったのですが、やはり機器の問題が数件あり(昨今の機器トラブルの原因は16㎜映写機等に関するものというよりは次々と更新されるMacの接続問題にあるようです)、やや遅延する会場があったようですが、それ以外は順調に進行することができました。また、会場のキャパの小さい会場が多く、すし詰めになる会場もあった、あるいは十分な遮光環境がないために西日が差し込んで投影像が見えにくいなどの問題も報告を受けております(作品発表会場は遮光シートを設置していたのですが、全室にこの設置をするのは予算的にも不可能でした)。この点、当初から懸念していた問題が表面化してしまったと言わざるをえません。
 スタッフについてですが、両日を通じて前川・板倉の研究室所属の大学院生12名で対応をし、発表のみの2日目には応援部隊として関西学院大学から8名の学部生・大学院生そして教員の方を、神戸芸術工科大学から助教の先生2名、大阪芸術大学から助手の先生2名にご協力いただきました。やはり大学内で総勢30名のスタッフがいれば、皆様にご心配をかけずにもっとスムーズに運営できたかもという感想をもちました。
 また、今回一日目をシンポジウムのみ、二日目を発表のみにいたしましたのは、財政的理由もあります。昨今の国立大学では、教室使用料が確実に請求されます―とくに他学部会場使用の場合は学内教員が開催する大会であっても、かなりの会場費がかかります。今回は懇親会会場を含む会場代のみで20万円強の費用が必要であり、この点、今後国立大学開催の場合には、引き続き問題になるかと考えております。

懇親会
 懇親会は瀧川記念学術交流会館で開催しました(参加者は85名)。少々手狭であり、なおかつ会場設営(とくに荷物置き場の設営)がうまくいっておらず、ご参加の方々にはお手数をかけてしまったかもしれません。さらに開始40分で食べ物がほぼなくなるという事態(映像学会員の胃袋恐るべし)にも対応を十分にはできませんでした。この点、反省しきりです。

収支
 収支は以下の通りです。過去の収支報告を見ると、全体で150万強の予算が必要なわけですが、多くの参加者を募るという意図もあり、今回は大会参加費を3000円におさえたために、120万以下の予算を組みました。外部から2つの予算を採ってきたこと、学内の研究予算を設備費に充当したこと、これで何とか大会収支ではバイト代も含めて十分な予算を組むことができました。

日本映像学会第43回大会収支報告
【収入の部】
①大会参加費   463,000円
 学会員参加費(147名)   441,000円
 一般参加費(8名)   16,000円
 学生参加費(6名)   6,000円
②懇親会参加費   407,000円
 学会員・一般・学生参加
  5,000円×79名=395,000円
 他大学応援スタッフ割引
  2,000円×6名=12,000円
③弁当販売収入   21,600円
 売上げ 600×36個=21,600円
④大会補助費   400,000円
(収入 計 1,291,600円)

【支出の部】
①シンポジウム経費(ゲスト謝金)   90,000円
②印刷費   83,718円
③郵送・通信費   67,552円
④会場費   201,387円
⑤用品事務費   29,557円
⑥飲食費(懇親会代含む)   464,802円
⑦宿泊費(会場準備にともなう)   24,200円
⑧アルバイト代   330,384円
(支出 計 1,291,600円)

【収支の部】
収入−支出=0円

反省、及び今後に向けて
 開催校側の反省点はすでにここまででいくつか書いていますので、逆に大会運営した側としていくつかの問題点も忌憚なく以下に挙げておきます。発表申込遅れが少なからずある。申込時の発表タイトルと概要集でのタイトルの変更が予想以上に多い。概要集原稿の誤字脱字もきわめて多い。また、研究会枠の発表申込も研究/作品発表申込と同じ時期に申し込んでいただくと、会場準備が大分楽になります。懇親会申込のドタキャンが一定数あります(今回は21名)。全体として毎回の大会の大まかなチャートなりがあれば、実行委員会のすべき仕事は明らかになります。…おそらく毎回こうした問題は生じているのでしょうが、これまでの報告にはないので、書き添えておきます。とはいえ、こちらからのそのつどの疑問・問い合わせに対する事務局からの迅速な返答には毎回助けられました。ここでも感謝の意を表しておきたいと思います。

実行委員会
委員長:前川修、副実行委員長:板倉史明、実行委員(50音順): 遠藤賢治、大橋勝、加藤哲弘、桑原圭裕、豊原正智、中村聡史、橋本英治。
以上

大会プログラム
6月3日(土)
 11:30 大会受付開始
 13:00-13:15 開会の辞
 13:20-14:40 基調講演「宇宙と映像」  講演者 柳川孝二(JAXA社友)司会 板倉史明(神戸大学
 14:50-17:50 シンポジウム「宇宙×映像」
  登壇者 古賀一男(元京都ノートルダム女子大学×北野圭介(立命館大学)×細馬宏通(滋賀県立大学)×畠山宗明(聖学院大学)
  司会 前川修(神戸大学)
 18:00-20:00 懇親会 神戸大学瀧川記念会館食堂

6月4日(日)
 10:00-18:00 研究発表・作品発表
 10:00-10:30
  研究発表
   森下豊美/漫画から動く漫画:アニメーションへ―九里洋二を中心に
   真鍋公希/特撮作品における「アトラクション性」―1950年代の東宝特撮映画を中心に
   西橋卓也/グローバル時代のハリウッド映画におけるナラティヴ―『バベル』におけるまなざしの表象について
   大谷晋平/「シネマ57」と美術映画―作品を「見る眼」の表現
   金蓓/北野武の映画作品における反復構造について―『ソナチネ』(1993)を中心に

  作品発表
   松本夏樹・福島可奈子/幻燈・活動写真混在期(明治~大正期)の実物上演による史料動態調査の実践

 10:00-11:10
  アナログメディア研究会

 10:40-11:10
  研究発表
   笠間悠貴/既視の街へ―小説の中の写真、渡辺兼人・金井美恵子『既視の街』について
   趙瑞/黄金時代アニメーション表現―動きの分析を中心に
   大﨑智史/初期映画におけるトリックの使用について―『映画ショーにおけるジョシュおじさん』を中心に
   早川由真/リチャード・フライシャー『絞殺魔』における不可視性と身振り―トニー・カーティスの演技について
   草原真知子/「生命系」メディアアートにおける映像の役割―「人工生命」からバイオアートへ
   朱依拉/『晩春』に見る原節子の「過剰」なる演技

  作品発表
   高山隆一/「暮れていく」―短篇映画を可能にする要素「制作」「提示」

 11:20-11:50
  研究発表
   木村和代/360度映像における作家性の考察―平面から球体空間で作家が引き出すものとは
   有吉末充/ミュージカルアニメの発展と変遷―アニメーションにおける音楽と動きの同期、身体表現の研究の基礎として
   中村秀之/『市民ケーン』(1941)における階級表象とその歪曲―W・エンプソンの「牧歌」論を手がかりとして
   宮田徹也/テクノロジー・アートと映像との関連性―森本加弥乃の場合
   韓承甫/小津映画における活発な性格の女性像について―登場人物の距離感と彼女たちの意味

  作品発表
   川口肇/wired-glass no.4 (rack-pinion)―銀塩フィルム/デジタル重畳プロセスによる映像表現
   奥野邦利/そして美しく―ProRes422/ステレオ/15min/2016年制作

 12:00-13:30 昼食 理事会
 13:30-14:30 第44回通常総会
 14:50-15:20
  研究発表
   加藤良将/インタラクティブ作品「あつめるあつまる」シリーズの制作―体験を促すための映像提示の方法について
   小出正志/学生アニメーションの振興・奨励に関する一考察―日本および北東アジアの現状と展望から
   雑賀広海/ジャッキー・チェンの落下と1980年代の香港映画―『プロジェクトA』と『ポリス・ストーリー/香港国際警察のアクション』
   山本祐輝/『雨にぬれた舗道』(1969)における女性主人公の声―アルトマン的音声の再考に向けて
   馬定延/メディアアートのための生成するアーカイブ(generative archive)試論―三上晴子の作品を中心に
   河野真理江/齟齬としてのすれ違い―日台合作メロドラマ映画『金門島にかける橋』(1962年)をめぐって

  作品発表
   相内啓司/Hello friends – schizophrenic view / たまゆら – Fading shade col. 2 ―多様な志向性と表現

 15:30-16:00
  研究発表
   赤羽亨・池田泰教/3Dスキャニング技術を用いたインタラクティブアートの時空間アーカイブ―ボーン撮影システムを用いたパフォーマンス作品の記録
   宮下十有/小学生のプログラミングにおけるアニメーション表現の実践、展開と可能性
   魚慧恩/日本のドラマコンテンツにおける海外進出戦略と課題―韓国との比較を通して
   藤井仁子/最初の作家主義者としての作家自身―映画の作家性をめぐる理論的提言
   関口敦仁/メディアアート文化史構築研究事業による考察
   中根若恵/複数の「当事者性」から母親たちのネットワークへ―セルフドキュメンタリー『抱く{HUG}』と反原発運動

  作品発表
   芦谷耕平/samskara(サムスカーラ)

 16:10-16:40
  研究発表
   安部裕/報道・情報番組におけるIP中継の技術及び実用についての考察
   江曼雪/中国におけるショートフィルム『一個饅頭引発的血案』をめぐる現象について―「草の根」から大衆文化の興起を論ずる
   百束朋浩/映画制作を題材とした映画の自己参照の非メタ性『雨に唄えば』から『アーティスト』まで
   太田曜/シネマトグラフ公開以降のエミール・レイノー―パントマイム・リュミヌーズからフォト・パンチュール・アニメへ
   森田典子/戦時期日本における映画的リアリズムとしての「ドキュメンタリー」の導入―文化映画プロダクション・芸術映画社の活動を事例として

  作品発表
   黒岩俊哉/異なった映像視点間における補完の考察―実験映像作品「nHt° 4」

 16:50-17:20
  研究発表
   郷田真理子/旧作映画復元のための「タイミング」技術史―ベテラン技術者へのインタビューと現像所の現場から
   飯岡詩朗/雑誌『ニューヨーカー』が描いた新しいメディア/家電としてのテレビ―1945-1955年のテレビをめぐる言説
   上田学/トーキーによる映画受容の空間的拡大
   平野大/映画『プレステージ』に見るシルクハットの役割と意味
   北市記子/コミュニケーション装置としてのビデオアート―山口勝弘の初期作品『ラス・メニナス』における試み
   紙屋牧子/最初期の「皇室映画」をめぐって―隠される / 曝される「身体」

  作品発表
   小林和彦/Roll way

 16:50-18:00
  映像表現研究会

 17:30-18:00
  研究発表
   松尾好洋/劣化フィルムの取り扱いによる健康被害のリスクと対策―アセテートフィルムから発生する酢酸ガスの影響を中心に
   中垣恒太郎/アメリカ医療ドラマの映像文化史―「情報」と「情動」を伝えるメディア表現の社会的機能
   田中晋平/1970年代前半の神戸における名画座と自主上映の関係:グループ無国籍の活動を中心に
   西村安弘/沈黙のかなた―ロッセリーニを通して見た遠藤周作
   八尾里絵子/残されたビデオテープから―淡路山勝工場の調査と「山口勝弘アーカイブ」

会報第180号より抜粋)