第25回大会[1999年]報告

日本映像学会第25回大会
1999年5月29日‐31日
主催校:愛知県立芸術大学・名古屋市立大学芸術工学部
実行委員長:野崎悠子

 第25回日本映像学会大会は、初めて中部地区に於いての開催でした。今までに何度か大会を開くようにと要望がありながらも、運営の主務母体の体勢が十分に整えられず、その都度見送らざるを得なかったのでした。今回、支部会員、そして参加会員、愛知県・名古屋市始め各機関、協力企業の多大な支援のもとに開催に至りましたことを先ず感謝し、喜んでおります。
 本来この中部は、当地の歴史的な背景の中で近年に至る社会基盤の著しい変容を受け入れながら、文化の芳醇な土壌に根差し、独自な推進力で異彩を放ってまいりました。そして、1974年の学会設立以来、日本映像学会は時代に課せられた映像の重要な役割を注視し、広い視野で捉えた様々な接点から、映像が担うべき問題を探り出す研究が発表されています。従って、第25回という区切りをこの際、新たな展開に繋ぐ機会にしていきたいと、本実行委員会は考えました。
 30年を経た愛知県立芸術大学、新設の名古屋市立大学芸術工学部、そして、地域文化を支えてきた豊田市のプラネタリウム、その3会場を連係させ、テーマについては、深い見識と理解、そして日々活動をされている特別講師を要請したい。そして、快諾のもとに、独自なプログラムを逐次展開することができました。
 第1日の「テーマセッション」、第2日の「研究発表」、第2日の「研究視察会」、その設営の意は、多面的にそして過激なまでに輻湊しつつある今日の映像媒体に向かい合って、隠されている潜在的な諸々の認識について、この機会に課題を掘り起こし、茫漠とした視野の境目へと結んでいく契機に寄与できたらと願ったことからです。
なお第1日は、開催にあたり愛知県立芸術大学奏楽堂において、松本俊夫会長の挨拶の後、近藤茂之氏によるパイプオルガンの歓迎演奏。続いて開催校から川上実愛知県立芸術大学学長、柳沢忠名古屋市立大学芸術工学部部長より、それぞれ歓迎の挨拶がありました。
 テーマセッションは、先ず河口洋一郎会員からハイビジョン映像による作品を軸に論旨(別稿)が展開されました。この設営は大変実現が厳しく、名古屋市立大学の新鋭備品、東海ビデオシステムとNHK名古屋放送局の協力があって可能になりました。続いて福村晃夫中京大学教授、山田卓会員、高柳泰世医博から、それぞれ依頼した演題(別稿)での講演。散会後、聴衆の熱い呼応が交わされました。
 続いて総会(別稿)。夕刻より芸大学生食堂にて懇親会に移りました。準備協力者も含め百余名の参加者が歓談。行木修幹事の司会、山口勝弘氏の乾杯、次期開催校の海本健東京造形大学長よりご挨拶、デジタルマジック(株)協力による楽団キューティーミディの電子演奏、芸大大学院生の周思昊シェフとその仲間が丹精をこめた野外調理による中華バイキングも加わり、夕暮から宵の口まで賑やかに楽しい交流のひとときを共に味わいました。
 また、芸大キャンパスでは、中部支部定例企画の「映像交流展」。今期は各大学からの学生作品に限って学内に展示、施設見学時には愛知県立芸術大学企画展「法隆寺模写展」の展観も併せて、参観を頂きました。
 第2日は、新装の名古屋市立大学芸術工学部棟に於て、発表会員各自論旨を2教室に別れ、事前に打ち合せた準備体勢・機材確保で発表を頂きました。(別稿)。各発表の座長は、横田正夫・豊原正智・上倉庸敬・波多野哲朗・永冶日出雄・野沢公子の各氏でした。
 第3日の視察研究報告は、別稿で記載します(会報第108号)。
 大会への会員参加者数は、参加登録147名。当日の参加者は128名で、3日間のプログラム参加者総数は355名でした。今期に用意し使用したネームバッチは、次期以降への備品として委託致しました。
 何かと不行き届きにも拘わらず、大会終了後早速に「愉快だった、参加した意義が有った」との各所からの好意と、労いのメッセージが届き、ようやく実行委員一同は、快い汗を拭うことができた今期大会の運営でした。

テーマセッション(5月29日・愛知県立芸術大学)
(1)CGスコープ
河口洋一郎「映像の視座を超えて物の見方を考える─On of The Growth─」
(2)パネルスコープ
福村晃夫「人工知能と感性の結び目」
山田 卓「宇宙のからくり天蓋図」
高橋泰世「視覚の死角・色覚の個性」

研究発表(5月30日・名古屋市立大学芸術工学部)
織田祐宏「映像の視知覚II─ビデオ撮影時のシャッター速度と映像の視認性─」
吉田宏之「ストーリー画像が言語情報に与える影響についての検討」
小出正志「漫画と映画とアニメーションに関する基本問題」
永冶日出雄「欧州連合EUの映画振興政策と多国籍劇映画の製作および配給─事例研究<ユリシーズの瞳>・<アントニア>を含めて─」
脇リギオ「メディア・リテラシーとは何か?─色再現を軸にリテラシーの問題点を考える─」
伊津野知多「仕掛けとしての現実性:アンドレ・バザンの演劇映画論をめぐって」
端山貢明「ネット・ムセイオンに向かって」
森友令子「ファッション写真家の視線」
井坂能行「プロパガンダ的機能を期待されての映画づくりはどう歩んだか─時代との相関、手法的特性の変遷を検証する─」
長久保光弘「立体映像における特異な視覚的表現の実例」
行木 修「バーチャルリアリティー─ドライビングシミュレータにおける映像制作─」
藤井仁子「成瀬巳喜男の1930年代─<撮影所監督>のスタイルに見る映画史的問題─」
木下武志・長 篤志「3次元コンピュータ・アニメーションにおける映像デザイン支援のためのハンドプロモーションからのパラメータ曲線抽出」
ミツヨ・ワダ・マルシアーノ「モダニティー、シネマ、そしてナショナル・ボディーの構築:松竹蒲田映画『若者よなぜ泣くか』(1930)分析」
小笠原隆夫「映像成立の基本的条件」

映像展(5月29日、30日・名古屋市立大学芸術工学部)
相内啓司「EURASIA」
石井晴雄「ハイパースクラッチVer.7」
宇井朗浩「Scherzo」
瓜生隆弘「CG 版画連作<From A>」
奥野邦利「まなざしの物語」
風間正・大津はつね「Dé-Sign10<Dimensions─次元>」
水津 功「非焦点領域の視野」
鈴木良太郎「INVENTION─Happy + Sad─」
高木剛志「バジルの風」
中村滋延「映像音響詩 “Life” & “Play”」
野崎悠子・鈴木正敏「多元的環境要素を、視覚を介して読み解くための─映像とモデルによるメディアツールの開発─」
橋本知子「跡」
長谷川哲「HOME 1998-3  HOME 1998-4  HOME 1998-6」
ほしのあきら「空の影~被写体とカメラの相互干渉によるリズムの試み」
吉川信雄「遠隔彫刻」
李 容旭「HIKARI」

(執筆・記録:野崎悠子/会報第108号より抜粋)