第23回大会[1997年]報告

日本映像学会第23回大会
1997年5月31日‐6月2日
主催校:東北芸術工科大学
実行委員長:端山貢明

 日本映像学会第23回大会は、1997年5月31日より6月1日まで、東北芸術工科大学に於て開催された。これは東北地方では初めての大会となった。
 本大会は、基調講演、研究発表、シンポジウム、映像展等の従来の大会の機能と相俟って、地域に開かれた大会(県民の参加、映像機器展等)、本学固有の活動の展示(「メディアアート・その軌道」展等)、他の社会プロジェクトとの提携(ドキュメンタリー映画祭プレイベント等)、新しいメディアの導入(インターネットによる発表、インターネット・ホームページの開設等)等、大会として新しい方向性を考える試みも行われた。
 会長、主催校挨拶に次いで行われた基調講演「サイバースペースは都市を消滅させるか?」講演 月尾嘉男、においては、距離、位置、時間を離れたサイバースペースにおける機能空間としての都市のありかたが論じられたが、これは映像情報メディアの今及びこれからを考えるところと重なるものとなった。
 研究発表には20の論文が寄せられ、以下のように各方面にわたる発表が2日にわたって、本学の207、208、413教室に分かれて行われた。

研究発表
脇リギオ「銀塩及びデジタル画像の色管理システム・そのII」
小出正志「映像のデジタル化とアニメーションの再定義」
横田正夫「アニメーション・キャラクターの心理学的検討」
八文字俊裕「”夢科学’97CGグランプリ”に見る、日、米、欧、コンセプトについて」
(以上、座長:端山貢明)
西村安弘「ロベルト・ロッセリーニ 再読」
石田美紀「映画的リアリズムの一形態 ロベルト・ロッセリーニとネオレアリズモ」
(以上、座長:武田潔)
斎藤綾子「オフュルスの女達:移動する欲望」
井坂能行「昭和30年代、ドキュメンタリーがとらえた風土・時代性~撮影・構成・編集手法の検証を通して~」
(以上、座長:小笠原隆夫)
友野千鶴子「「文化財」としての映像の資料意識の一事例と課題」
後々田寿徳「NTTインターコミュニケーション・センターについて」
(以上、座長:登川直樹)
飯村隆彦「CD-ROM「映像実験のために」とマルチメディア」
土佐尚子「インタラクティブシネマにおける感情移入と仮想世界の生成」
沖 啓介「少女とリアリティー:記号と操作」
端山貢明「ネット上高度総合情報データベースの試行について」
(以上、座長:幸村真佐男)
長谷川明子「ビデオの中のアートとしてJ.P.レイノーの「家」とその破壊」
クリストフ・シャルル+遠藤律子「日本の映像芸術における「不確定性」及び「相互浸透」の概念」
(以上、座長:波多野哲朗)
谷川真美「現代美術における写真表現」
福屋武人「抽象概念における映像表現の心理的分析」
(以上、座長:横田正夫)
吉川信雄「ルドルフ・シュタイナーとの黒板絵について~矢印についての提起~」
鐘ヶ江眞一「MPEG2を用いたビデオ・オン・デマンドシステムによる映像展示について」

シンポジウム
「映像のリアリティとヴァーチャリティ」
モデュレーター:幸村真佐男
パネリスト:横山紘一(「唯識思想と仮想現実」)、木下長宏(「ソラリスの海の意味論」)、阿部・マーク・ノーネス(「映像のデジタル化とドキュメンタリティー」)、上野俊哉(「J.J.ルソーにおける自然とヴァーチャリティー」)

映像展
<パネル展示>
瓜生隆弘「彗」sui「瑠」ru「飛」hi
鈴鹿芳康「アナログとデジタルのクロスオーバーが求める三位一体」
<8ミリフィルム作品>
ほしのあきら「まどろむ前の」
<スライド作品>
大山千賀子「残像の中で聞く現代音楽聖域」
<ビデオ作品>
大橋 勝「竹管の宇宙」
伊奈新祐「Nyotaku(女拓)」
風間正+大津はつね「Dé-Sign8(NEW MIND)」
浅井敬三「1990年代前半 海外テレビCMの表現トレンド」
<マルチメディア作品>
鐘ヶ江眞一、新開清史、鈴木健(新世代通信網実験協議会/通信・放送機構奈良リサーチセンター)「ビデオ・オン・デマンドシステムを用いたBBCC学生映像フェスタ’96作品の展示」
前川道博「WWW指向MMDB試作サイト集」

 また本大会において特に並行して開催された東北芸術工科大学映像コース教員作品展「メディア・アート その軌道」(7Fギャラリー、5月22日~6月1日)では、MediaArtsとしての視覚的表現体系、Photography,Video Arts,Computer Graphics,Light Art,Kinetic Art,etc.がサイバースペースとの関わりの中でその表現と構造をどのように変化させていくか、その軌道を見透す視点に立った水準の高い作品の提示が行われた。
 ここでは以下のように本学教員及び学生(括弧内)の作品が提示された。幸村真佐男、山崎博(沼倉美保、佐々木郁文、馬場勇、深町朝子)、西村宣起(若尾義博、坂井一淑、鈴木祐貴、松本常幸、渡辺好光、三浦宏之)、加藤到(河野美勝、池側隆之、石田美由紀、成原知子、曽我部哲也)、村松泰三、川口肇、久保田尚永、野上文天。
 この会場には、内外1663名の多数の来場者(本大会会期中427名)があり、この分野におけるこの地域の関心とポテンシャルの高さを改めて認識させるものとなり、またこの作品展を本大会に併催したことの意味を確認させるものとなった。
 「今日と明日の間の先端映像技術」として、今や実用化を目前にした高度映像テクノロジーを総覧するために、これも、本大会において特に併催された映像機器展には、内外15社を数える企業の力のこもった出展があり、この分野におけるこの地域の大きな可能性を見せるものとなった。7Fギャラリー会場とともに無料で一般公開されたこの会場には、約450名の来場者があり、会期の間本学も熱気に包まれていた。
 インターネット・ホームページは、日本映像学会大会としては、本大会で初めて開設された。そこではネット上の討論も行われ、日本映像学会のホームページ開設を示唆する画期的な存在となった。
 6月2日には、酒蔵見学と試飲、蕎麦打ち体験とその成果を食べる昼食、最上川三難所下りを含むエクスカーションが行われ、和気あいあいたるうちにこの第23回大会を終わることが出来た。
 本大会においては、映像学会の活動の励起化とともに、地域のポテンシャル、創造性を高めることを大きな目標としたこともあり、本学における大会の開催がこれからも様々な波及効果を生み続ける一つのトリガーとなることが出来たとすれば、この上ない幸いである。
 本大会の参加者は、正会員95名、賛助会員12名、学生会員8名、一般18名、学生55名、山形県民101名、総計289名となった。ここで山形県民101名の参加は、注目すべきものとなった。

(執筆・記録:端山貢明/会報第100号より)