第31回大会[2005年]報告

日本映像学会第31回大会
2005年6月4日‐6月6日
主催校:九州産業大学
実行委員長:河地知木

 会員の皆様、御参加有り難うございました。第31回日本映像学会は楠の葉の香る初夏、6月4日・土曜日から6月6日・月曜日まで福岡市の九州産業大学芸術学部にて開催されました。今大会を締めくくるに当たりここに報告申し上げます。1993年に第19回大会の会場として、大会の運営に当たってから12年の歳月が流れました。その間、会場となった本学では施設設備が一新されましたが、それと同じくして、大会の発表も方法や機材の移り変わりには、時間(とき)の流れを感じざるを得ません。大会期間中は幸い天候にも恵まれ、特にエクスカーションの当日には汗ばむほどの陽気の五月晴れ(?)となりました。大会は理事会、総会、基調講演、シンポジウム、研究発表、懇親会、エクスカーションと進み、無事終了いたしました。これもひとえに会長をはじめとする理事会の皆様方、会員の皆様方の御協力の賜物と感謝申し上げます。
 会場となりました九州産業大学は1960年に九州商科大学として発足しました。1963年には九州産業大学と改称し、現在では8学部27学科と7研究科、あわせて学生数13,000人余を数えるに至りました。
 芸術学部は1966年に美術学科(1学年100名)、デザイン学科(1学年180名)、写真学科(1学年110名)の3学科が設置されましたが、2002年に芸術工芸学科(1学年30名)を加え、現在は4学科構成となっています。芸術研究科は1974年に、博士後期課程は1999年に開設されました。現在では芸術研究科博士前期、後期課程として統合されています。
 さらに詳しく内訳を申しますと、美術学科には絵画、彫刻・総合造形美術文化コースがあり、芸術工芸学科には彫金、鋳金、窯芸染色のクラスがあります。デザイン学科には、ビジュアルデザインコース(コミュニケーション/アート・クラス)と人間環境デザインコース(スペース/プロダクト/デザインビジネス・クラス)の2コースがあります。写真学科には写真表現コース、メディア映像コースがあり、芸術学部としても多岐にわたる分野にまたがっています。デザイン学科のビジュアルデザインコース、写真学科のメディア映像コースには、本学会と関係する専門を学んでいる学生がいます。映像学会会員の教員はデザイン、写真の両学科合わせて10名を数えます。
 今回の大会には、会員104名、一般参加15名の計119名の方の参加をいただきました。研究発表は21件、作品発表は12件におよび、エクスカーションには16名の方に参加いただきました。日本の他所からは、遠隔地であるにもかかわらず多くの方々にご参加いただくことが出来ました。
 準備に関しましては、前述のスタッフ全員で当たりましたが、日頃の授業や業務の中、思うようにはかどっりませんでした。シンボルロゴ、概要集などの印刷物の発注、掲示物、サイン計画と印刷などは、おおよその形や発表者数が決まった後に、デザイン学科の会員が分担しましたが、ようやく間に合ったとの感がぬぐえない次第です。
 基調講演・研究作品発表当日は、大学院生、学部事務、学部副手の助力により、受付、会計業務が行われました。午前中の理事会および総会での審議はスムーズに運び、あわせて2時間程で終了しました。会計報告については今年度決算、ならびに来年度予算ともに了承され、次回開催校も関西学院大学にお引き受けいただくことが決定いたしました。
 懇親会は70名の参加があり、会場は美術館3Fにあたるガラス張りのギャラリーでした。日照時間が長くなりつつある時期であったため、薄暮の中でなごやか、かつ賑やかに行われました。21件の研究発表につきましては、映像教育、監督・作家論とその分析、映像作品の分析、フィルムとデジタルのお関係性に関するもの等、日頃の研究成果を存分に発表いただけたと思います。作品発表では12件がありましたが、こちらも実験映像、ドキュメンタリー、インスタレーションと充実していました。
 基調講演いただいた河口洋一郎氏とは、彼がまだ東京教育大学(茗荷谷)の修士学生であったころからの旧知であり、本学芸術学部主催の講演会へも15年程前においでいただいたことがありました。今回も直前まで韓国におられ飛行機に乗れるかと心配をしましたが、お忙しい中よくおいでいただいたと感謝しています。「映像のアート・アンド・テクノロジー」との共通テーマの演題で、貴重な今後を示唆するお話をいただきました。
 シンポジウムでは数々の映画のCG制作で実績のある本学出身のVFXスーパーバイザー古賀信明氏と、古くは「ウルトラマン」から新しくは「ホールドアップダウン」など数々の撮影、特殊効果監督である中堀正夫氏に御登壇いただきました。
 つぎにエクスカーションにつきましては、当初阿蘇山などを考慮に入れていましたが、次の3カ所を順に見学、訪問することにいたしました。学生参加などを含め20名弱であったため、バス一台で動くことができました。まず早朝、博多駅前より出発し、最初は本学より30キロ弱ほど南下し、学問ゆかりの神様、菅原道真公を奉る太宰府天満宮でした。ここも初夏の日を浴び楠の大木、菖蒲が美しい季節で好評であったと思われます。また時間があれば太宰府政庁遺跡・都府廊跡や観世音寺などもご案内できればと思っておりました。
 2番目には、同じく太宰府天満宮の奥山の中腹にある、この10月15日に開館を控えた九州国立博物館の開館前見学をいたしました。内部は未展示でしたが稜線のカーブを意識した屋根をいただき、博物館建築としてはめずらしいガラスの外壁を持つなど興味深い建物を皆さんに見学していただきました。
 3番目には太宰府地区より更に南下、さらに東へ向かい大分県は温泉の町、湯布院に御案内いたしました。昼食は失礼とは思いましたが、時間の有効利用を優先し車内でお弁当を食していただきました。湯布院町は銘峰由布岳のふもとの各種美術館や、映画祭が催されるなど、一小文化芸術地区を形成していることで知られる所です。温泉に入浴された方もおられるなど、ここでは自由に散策いただきました。湯布院散策を終えバスは一路福岡空港へ、次にJR博多駅へと向かい、各自予定されたそれぞれの交通機関の時刻に遅れることなく、午後6時には無事終了致しました。報告を閉じるに当たり理事会、会員の皆様方、助力いただいたすべての皆さまにお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
 今回は宿泊施設の早い時期でのお知らせや、日程など運営面などで御心配をおかけしました。これらはひとえに慣れない実行委員長など仰せつかってしまった私の不徳の致すところでございます。色々行き届きませずまことに申し訳なく思っております。
 また、九州にお越しの際には、気軽に本学まで立ち寄っていただければ幸いです。
(執筆・記録:河地知木/会報第132号より)

プログラム
●6月4日(土)基調講演・シンポジウム・作品発表
会場:九州産業大学芸術学部
12:30 大会参加受付(芸術学部15号館2F)
13:15 開会挨拶 河地知木(九州産業大学芸術学部長)
13:30-14:30 基調講演「映像のアート・アンド・テクノロジー」   河口洋一郎(東京大学)
14:40-17:00 シンポジウム「映像のアート・アンド・テクノロジー」
          パネラー  古賀信明(ビジュアルエフェクトスーパーバイザー)
                   中堀正夫(撮影・特殊技術)
                   吉崎誠多(アップルコンピュータ・ビデオディベロップメント)
          司会     黒岩俊哉(九州産業大学)
13:00-18:00 作品発表(芸術学部アートギャラリー)
映像作品
   相内啓司「愛撫・La caresse/The caress」
   奥野邦利「夜の重力」
   風間 正・大津はつね「De-Sign16(デ・サイン16)<BROWN LIFE>
   中村滋延「映像音響詩《曼陀羅幻想》 Audio-Visual Poem “Mandala Fantasy”
   許 丙燦「モンタージュ技法を利用した映像表現に関する研究:自作作品を中心に─<MON>-01,<MON>-02,<MON>-03」
   簑原眞実子「tu ki to ha na」
   竹林紀雄「美の巨人たち ジュール・パスキン作 横たわる女あるいはマノリータ」
       「美の巨人たち ゴーギャン作・説教のあとの幻影」
       「ドキュメンタリー人間劇場 母ちゃんになりたい~脳性マヒみゆき生きて愛して~」
   かわなかのぶひろ「映像書簡10 correspondance」
インスタレーション
   阪本裕文・水野みか子「ケルヒ・Der kelch」
   曽我部哲也「楽音」
   林 桃子「Time Piece No.2」
パネル展示
   吉川信雄・高橋琢理「LIBRASPATIUM:小物体の構成するバランス空間とその分割」

●6月5日(日)研究発表・作品発表・総会・懇親会
会場:九州産業大学芸術学部
研究発表
10:30-11:00
   韓 燕麗「在米中国系移民の映画制作に関する考察:「大観影片公司」を中心に」
   猿渡 学「北野武の映像世界:『Dolls』に見る物語の構造から」
   中野 泰「ヴィネットの中の人形:エドウィン・S・ポーターのアニメーション表現」
11:05-11:35
   溝渕久美子「「翻訳」メディアとしての「活動写真」:ベルヌ条約ベルリン改正と初期映画に関する一考察」
   中村聡史「ABSOLUTE WATCH POWER:『目撃』におけるクリント・イーストウッドと現代ハリウッド映画」
   佐分利敏晴「セルアニメーションにおける歩きと走りの作成方法についての一考察:生態心理学的アプローチとバイオメカニクスから」
11:40-12:10
   大澤 浄「メディア・イヴェントから教育映画へ:大阪毎日新聞社の映画教育運動」
   鄭 又龍「太陽光と映像媒体の出会いによる造形的表現範囲の拡張可能性に関する研究(光の庭園2─自作作品を中心に)」
   今井隆介「描く身体の痕跡:アニメーションにおける筆触についての試論」
12:10-13:10 昼食(理事会)
13:10-14:10 第32回通常総会
14:20-14:50
   杉田このみ「映像表現の教育的理論の研究と実践の展開:映像表現による人間教育プログラムの構築」
   野島直子「多和田葉子の映画論:小説『旅をする裸の眼』におけるラカン理論と女性性をめぐって」
14:55-15:25
   佐賀啓男「ビデオの表現形式と学習:芸術的表現か教科書的表現か」
   鳥山正晴「ジャン・ユスターシュ「不愉快な話」をめぐる考察」
15:40-16:10
   八木信忠・上倉泉・齋藤壯太「フィルムで制作された映画とデジタルシネマの諸特性の比較研究:35mmフィルムとデジタルシネマのオーバーオール特性比較」
   春日太一「東映京都テレビプロダクションの考察:テレビと映画の産業交流から見たその歴史的意義」
   小出正志「特撮とアニメーションに関する一考察」
16:15-16:45
   山下 耕「スイッチング技法の習得メソッドに関する考察」
   橋本 淳「異種配合と伝統:『用心棒』にみる黒澤時代劇の位相」
   栗原詩子「ノーマン・マクラレンの音楽性:映像作品《シンクロミー》に流れる時間
16:50-17:20
   水野勝仁「GUI開発過程における「画像」の役割の変化:ダグラス・エンゲルバートとアラン・ケイの思想
   佐々木理恵「音表現を通して探る今日の映像アートの傾向と可能性:「THE BEST OF RESFEST vol.1,2,3」の分析

懇親会  17:30-19:30
作品発表 10:00-17:30(作品・会場は前日に同じ)

●6月6日(月)エクスカーション
九州国立博物館・湯布院

以上