第46回大会[2020年]報告:関西大学(オンライン開催)

日本映像学会第46回大会
2020年9月26-27日
主催校:関西大学(オンライン開催)
実行委員長:門林岳史
大会実行副委員長:堀潤之

日本映像学会第46回大会報告
実行委員長 門林岳史(関西大学)

 2020年9月26日(土)、27日(日)に日本映像学会第46回大会が開催された。本大会は、日程を延期した上でのオンライン開催となったため、ここで大会実施の概要を報告するにあたり、最初に大会開催までの経緯を書き記しておきたい。

1.大会開催までの経緯
 本大会はもともと2020年5月30日(土)、31日(日)に関西大学千里山キャンパスにて開催することが予定されていた。研究発表・作品発表募集の公示(2020年1月)、応募された発表の審査(2020年2月〜3月)、受理された発表の概要集原稿執筆依頼(2020年3月〜4月)、千里山キャンパスでの教室の手配、関西大学の大会開催補助申請など、大会開催にあたっての準備はすべて、5月末に大学キャンパスで実施することを前提として準備が進められていた。
 新型コロナウイルス感染症の流行のため、予定した日程に大学キャンパスにて大会を開催できないのではないか、という懸念が最初に持ち上がったのは、2020年3月21日に開催された総務委員会、理事会においてのことである(門林は海外渡航中のため大会実行委員会副委員長の堀潤之が代理出席)。まだ日本国内は爆発的感染と呼べる状況ではなかったものの、徐々にPCR検査陽性者が増え始め、とりわけ海外からの帰国者の感染が不安視されていた時期である。この総務委員会、理事会においては、オンライン開催に向けた積極的な声はまだなく、5月末の開催が困難になった場合には9月頃に延期して開催するという指針が提示されたと聞いている。
 ところがその後、日に日に感染状況は悪化し、4月からの新学期開始に向けての各大学の対応も慌ただしくなっていく。この段階で5月末の大会開催は不可能とまでは断定できる状況ではなかったが、その見込みは少なく、開催準備にあたっての混乱を避けるためにも延期を決定すべきである、と開催校より実行委員会および理事会に提案した。理事会でのメール審議を受けて会長・実行委員長名で開催延期を会員に通知したのは、日本政府が7都道府県で緊急事態宣言を発出した4月7日のことである。また、多くの発表予定者が担当授業のコロナ対応などで多忙を極めている、多くの図書館や研究機関が緊急事態宣言下で閉鎖しており資料調査を遂行できない、などの状況を鑑みて、4月17日に設定していた概要集原稿の提出期限も6月頃を目安に延期することにした。
 この段階で決まっていたのはおよそ以下の二点である。
(1)延期された大会日程は9月26日、27日とし、開催の可否を7月末までに実行委員会、理事会で判断する。
(2)大会と同日程で開催が予定されていた通常総会は郵送での議決というかたちで実施する。
 なお、この段階ではまだオンライン開催の可能性についてはほとんど議論していなかった。
 さて、4月上旬にピークを迎えた感染の波は急速に静まり、緊急事態宣言が段階的に解除された5月中旬以降、しばらく平穏な時期が続いた。大会開催校側もこの時期には、9月には十分な感染防止対策を取ったうえで大学キャンパスで大会を実施できるのではないかという希望を抱いていた。実際、6月18日には発表予定者に宛てて、中断していた概要集原稿提出を7月20日を新たな締切として受け付ける旨のメールを送っている。だが、一旦おさまっていた感染の波は7月に入った頃から再び押し寄せてきた。その間、理事改選により日本映像学会会長は武田潔氏から斉藤綾子氏に交代しており、延期された日程での大会開催の最終的な可否は、7月25日に新会長のもとでオンライン開催される理事会にて決定されることになっていた。
 オンラインでの大会開催の可能性を具体的に検討しはじめたのはこの頃である。7月末の段階で2ヶ月後の感染状況を予測することは不可能だが、4月頃の感染の波がいったん収まったあと再び感染者数が増加している状況を踏まえると、直前になって中止になるリスクを抱えながら大会開催の準備を進めるのは得策ではない。また、全国規模の会員の移動をともなう大会を大学キャンパスに集まって実施することは、学会の社会的責任の観点からも望ましくないと考えた。
 また、この頃にはすでにいくつかの他学会が様々な形態でオンラインの大会を実施、ないし実施の予定をしていた。さらに、春学期のあいだに多くの会員がZoomなどを用いた遠隔授業を実施しており、すでにオンライン環境に習熟しつつあるので、大きな混乱なくオンライン開催を実施できるのではないかという読みもあった。その際、他学会では発表原稿をメール回覧し、学会ウェブサイトに掲示板を開設してそこで質疑応答を行う、などのテクストベースでの大会の遠隔開催を実施しているところもあったが、日本映像学会の場合は映像資料の提示が不可欠な発表が多いことから、Zoomなどのオンラインビデオ会議システムを用いた開催形態が望ましいだろう、と開催校では相談していた。こうして7月25日の理事会にて開催校・大会実行委員会よりオンラインでの大会開催を提案し、それが承認されて9月末のオンライン大会開催が決定された。

2.大会開催報告
2—1 大会実行委員会
 日本映像学会第46回大会実行委員会のメンバーは以下の通りである。

委員長 門林岳史(関西大学)
副委員長 堀潤之(関西大学)
委員  菅原慶乃(関西大学)
委員  伊藤弘了(京都大学)
委員  大橋勝(大阪芸術大学)
委員  桑原圭裕(関西学院大学)
委員  橋本英治(神戸芸術工科大学)
委員  前川修(神戸大学)

 大会準備および実施にあたっては、関西大学の堀潤之が主に概要集作成、菅原慶乃が主に会計を担当した。委員長の門林岳史は、理事会、総務委員会との連絡や事前調整、シンポジウムの企画、オンライン環境の設定、その他全体の統括を担った。神戸芸術工科大学の橋本英治委員には大会ホームページの作成、管理を担当していただいた。大阪芸術大学の大橋勝委員には後述する作品発表のオンライン映像配信などを担当していただいた。また、大会当日の運営にあたっては京都大学の伊藤弘了委員の統括のもと、京都大学の大学院生たちにスタッフとして加わってもらい、Zoomでの分科会開催のホストを務めていただいた。他の実行委員にも分科会の司会など様々なかたちでサポートしていただいた。とりわけ開催校以外から実行委員会に加わっていただいた皆さまにはあらためてお礼申し上げる。
 なお、当初実行委員会に加わっていただいていた大阪芸術大学の遠藤賢治氏は残念なことに2020年2月9日に急逝された。ここにお悔やみ申し上げる。

2—2 オンラインでの開催形態
 すでに述べた経緯により、本大会は9月26日(土)、27日(日)の2日間、オンラインにて開催された。開催形態としては、研究発表・作品発表は1日目の夕方から2日目にかけて、4つの分科会に分かれてZoomにて開催した。「映像アーカイブの実践と未来」と題したシンポジウムは、比較的多くの参加者が見込まれることと、登壇者間の議論を円滑に進めるため、一般参加者は視聴のみのZoomウェビナーにて1日目の午後に開催し、質疑はウェビナーのQ&A機能で受け付けることとした。
 大会参加資格については、シンポジウムのみ一般公開とし、研究発表・作品発表の分科会は会員のみのイベントとした。これは、日本映像学会としては初めてのオンラインでの大会開催となるため、不慮のトラブルをなるべく回避しやすい開催形態にしようと総務委員会・理事会で協議して決めたことである。ただし、その結果参加者がやや少なくなってしまったことは否めない。後になってみればむしろ、自宅からオンラインで参加できる実施形態を、非会員の皆さんにも幅広く日本映像学会の研究活動を知ってもらう好機と捉えて、すべてのセッションを一般公開する方がよかったのではないかと考えている。
 また、日本映像学会では通例、大会参加費を徴収しているが、今回のオンライン大会は参加無料とした。これは、オンライン開催のため教室使用料がかからないので、Zoom契約料は発生するものの施設費が大幅に節約できるからである。また、参加費を銀行振り込みなどで事前徴集し、参加費を支払った方のみにZoomへのアクセス権を発行する事務手続きがかなり煩雑になることも想定された。
 Zoomでの実施形態としては、研究発表・作品発表の各分科会ごとにZoomアカウントを契約し、それぞれの分科会のZoom登録リンクを会員メーリングリストおよび学会ウェブサイトの会員ログインページにて会員限定で配信した。シンポジウムは一般公開のため、Zoomウェビナーの登録リンクを大会ウェブサイトなどで告知した。シンポジウムおよび各分科会の参加実績は別表1の通りである。【別表1は、会報190号を参照】

2—3 シンポジウム
 シンポジウム「映像アーカイブの実践と未来」では、長野大学の相川陽一氏、せんだいメディアテークの甲斐賢治氏、京都大学のミツヨ・ワダ・マルシアーノ氏を迎え、門林の司会のもと、映像アーカイブの現状とその課題について討議した。
 最初に相川陽一氏からは、自身のライフワークである小川紳介プロダクションのアーカイブ資料整理と利活用について報告された。小川プロ関連の資料は、小川紳介監督の死去後、「成田空港地域共生委員会歴史伝承部会」に移管され、2011年の「成田空港 空と大地の歴史館」開館後は同館で資料の保存・整理・展示が行われている。相川自身、長年この資料の整理に携わってきており、2018年度からは科研費プロジェクトで資料整理と研究活用に参入している。
 また、もともと小川プロが所持していた映像・音声・写真・文書資料に加え、相川は各地域での自主上映会に関わる資料の収集・保存・整理にも取り組んでおり、今回の報告では長野県松本市で自主上映に携わってきた百瀬範明氏旧蔵資料の整理と記録保存の活動が紹介された。こうした各地で実施されてきた自主上映会では、フィルム自体はプロダクションに送り返されて残らないが、そのかわりにチラシ・ポスター・鑑賞券・来場者アンケートなどの資料が地域に残される。こうしたノンフィルム資料は、当時の自主上映会の模様をうかがわせる貴重な資料であるが、その多くは自主上映に携わった個人が所蔵しているため、現在散逸の危機にある。
 全般的に20世紀後半の映画関連資料の特徴として、具体的な質量をともなった現物資料が膨大かつ多様に蓄積されているが、そうした資料の収集・保存・整理はデジタル・アーカイブに注目が集まるなか、手薄になりがちである。このような状況を踏まえて相川は、研究者も整理ずみの資料を利活用するだけでなく、自ら資料の整理に携わる「参加型資料整理」が必要とされているのではないか、と問題提起した。
 次に甲斐賢治氏からは、「3がつ11にちをわすれないためにセンター(わすれン!)」を中心に、アーカイブに関わるせんだいメディアテークの取り組みが紹介された。「わすれン!」は、せんだいメディアテークが2011年の東日本大震災以来後に立ち上げた市民協働型のアーカイブ・プロジェクトであり、市民がスタッフや映像作家と協働しながら、個々人が経験した震災のありかたを映像・音声・写真・テクストとして記録するところにその特色がある。こうした独自の活動の背景には、公営の生涯学習施設としてのせんだいメディアテークの性質がある。そのため、アーカイブ事業を市民の文化活動として組織していくことを、せんだいメディアテークではとても重視していることが強調された。実際、「わすれン!」も、単に記録した資料を保存・公開するだけでなく、館内での各種展示や哲学カフェなどのイベントと連動して運営されている。
 また、せんだいメディアテークでは他にも民話の語りの記録収集(「民話 声の図書室」)や、クラブイベントのフライヤーやレコードショップの袋などの収集・展示(「くろい音楽室」)といったアーカイブに関わる事業を実施してきたが、それらの事業もすべて、地域のコミュニティに根ざした市民の文化活動として組織されている。そうしたアーカイブのありかたを甲斐は「コミュニティ・アーカイブ」、あるいは草野球になぞらえて「草アーカイブ」として位置づけた。すなわち、市民によるメディア実践を活性化していくものとしてのアーカイブである。そのようなアーカイブ活動を持続可能なものとして組織していくための課題を何点か提示して、甲斐は報告を締めくくった。
 最後にミツヨ・ワダ・マルシアーノ氏からは、相川、甲斐による事例報告をふまえて、マクロな視点からの現状分析と提言がなされた。ワダ・マルシアーノは、現在管内閣が準備を進めているデジタル庁設立の動きや、ナショナル・アーカイブの設立に向けて政策提言するために設立された官民横断組織である「文化資源戦略会議」(2012年〜)の活動などを紹介し、それらの組織のありかたがきわめて中央集権的であり、デジタル・アーカイブをめぐる政策決定がトップダウンで進められようとしている現状を指摘した。
 しかしながら、岡島尚志の発言を参照しながらワダ・マルシアーノが示したように、デジタル・アーカイブはいまだ脆弱性を抱えており、それを持続可能なものにしていくためには財政面、人的資源、法整備などの点で課題が多い。とりわけ映像アーカイブに関して言うと、それを専門家や愛好家にとって有意義なかたちで運用していくためには、映像研究者の側で積極的に発言し、政策決定に介入していくことが欠かせない。以上を踏まえてワダ・マルシアーノは、デジタル映像アーカイブの未来のために映像研究者によるコンソーシアムを設立することを提案した。
 三人の報告を受けてシンポジウムの後半では、ZoomウェビナーのQ&A機能で視聴者から寄せられた質問や意見も汲みとりながら活発に議論が交わされた。多様な議論のすべてをここに記録することはできないが、結論として見えてきたことは、アーカイブを実質的な意味があるものにしようと取り組んでいる人たちがおり、そして、その人たちは連帯を求めているということである。このシンポジウムを日本映像学会大会の一部として企画した立場からは、こうした連帯に研究者の立場からどのように参与していくことができるかが、私たちに問われていると痛感した。

2—4 研究発表・作品発表
 研究発表・作品発表について最初に述べておく必要があるのは、大会日程が延期され、開催形態もオンラインに変更になったため、発表辞退の希望が出てくることが想定されたことである。実際、発表予定者に事前に辞退の申し出を受け付けたところ、様々な事情による辞退の申し出はあったものの、幸い多くの発表予定者の理解をいただき、3月の段階で受理した計56本(研究発表45本、作品発表11本)の発表のうち、計38本(研究発表33本、作品発表5本)を実施することができた。研究発表に比べ作品発表の辞退率が高くなってしまったのが残念であるが、発表形態の性質上、オンラインでの実施が困難な場合もあったのではないかと想像する。
 オンラインでの発表にあたっては、Zoomの画面共有機能で発表スライドを提示し、配付資料がある場合にはZoomのチャット機能を用いて資料のファイルを配布するという形態をとった。なお、著作権への配慮と通信環境への負荷の軽減の両面から、研究発表については動画資料の画面提示をせず、作品のスチル写真などの静止画像をスライドの一部として提示するのみにとどめていただくようお願いした。作品発表については自作など著作権上問題がない場合のみ、動画資料の画面提示を認めることとした。
 また、作品発表については、分科会での発表にあわせて、希望する発表者にかぎり、大会開催前後2週間程度を目処として映像作品のオンライン配信を実施した。これは、通常の大会では映像作品をループ上映する会場を設けているのでそれに対する代替措置である。配信方法は、発表者自身がVimeoなどの動画配信プラットフォームに作品をアップロードし、リンクとパスワードを共有してもらうか、発表者より預かったデータを大会公式のYouTubeチャンネルにアップロードするかのいずれかの方法を採った。結果、計4本の映像作品をオンライン配信することができた。
 各分科会は、別表1の通り参加者数こそ必ずしも盛況とはいかなかったものの、大会実行委員、学生スタッフの臨機応変な対応もあり、慣れないオンライン開催にもかかわらず、ほとんどトラブルなく進行できたのではないかと思う。各発表の内容については、本ニューズレターに掲載されているそれぞれの発表の報告をご覧いただきたい。質疑応答は、質問をチャットに書きこむか、質疑応答時間中にZoomの挙手機能で合図をしたうえで発言してもらう、というかたちで行った。すべてのセッションにわたって活発な質疑応答が交わされた、とは必ずしも言えないかもしれない。分科会セッション中の公式の発言以外に聴衆が発表者に対してリアクションする機会を設けづらいのはオンライン開催の難点だろう。休憩時間や懇親会の席でのカジュアルな意見交換は、大会における研究交流の欠かせない一側面である。もし今後もオンライン大会が実施されるならば、そのようなインフォーマルな研究交流の経路をどのように確保するかが新たな課題となるだろう。

2—5 会計報告
 本大会の会計は別表2の通りである。【詳細は、会報190号を参照】

3 おわりに
 以上、延期のうえでのオンライン実施という異例の大会開催について報告した。この報告自体も、大会開催までの経緯や、開催にあたっての実務的な事柄に多くの字数を割く異例の報告文となったが、厳しい社会状況のなかでの学会活動継続の一事例として参考になれば幸いである。大会開催に支援や支持をいただいた発表者の皆さま、学会理事、会員の皆さまにあらためてお礼申し上げる。