第49回大会[2023年]報告:明治学院大学

日本映像学会第49回大会
2023年6月10-11日
主催校:明治学院大学
実行委員長:斉藤綾子
大会実行副委員長:鳥山正晴

日本映像学会第49回大会報告
実行委員長 斉藤綾子(明治学院大学)

 2023年6月10日(土曜日)~11日(日曜日)の二日間に亘り、明治学院大学白金キャンパスにおいて、日本映像学会大会第49回大会が開催されました。今回は2019年第45回大会(於山形大学)以来4年ぶりの全面対面開催となりました。とはいえ、残念なことに、一日目のシンポジウムの後に行った懇親会は飲食を伴わない交流会になり、また50回総会も昨年まだ不確定要素があったために昨年12月の理事会で書面議決と決まり、大会中の総会開催とはなりませんでした。完全に以前のような大会開催の形になるのは、来年に九州産業大学で開催される記念すべき第50回大会だと思うので、今から楽しみです。ともあれ、久しぶりの完全対面開催かつ東京で開催されたということもあり、全国各地から多くの会員・非会員の方々に参加して頂き、シンポジウム、研究発表、作品発表と大過なく終えることができました。参加してくださった会員を始め、準備から当日の開催運営に至るまで多くの方にご協力頂き、無事大会を終えることができました。改めて心よりお礼を申し上げます。
 なお、大会実行委員会のメンバーは以下の通りです。
 委員⻑:⻫藤綾⼦(明治学院⼤学)、副委員⻑:⿃⼭正晴(⽇本⼤学)
 委 員:晏妮(⽇本映画⼤学)、奥野邦利(⽇本⼤学)、韓燕麗(東京⼤学)、志村三代⼦(⽇本⼤学)、宮本裕⼦(立教大学)、⾨間貴志(明治学院⼤学)
 以下、簡単なご報告をいたします。

1.開催までの準備
 開催校となった明治学院大学では、初の大会を引き受けることになっただけでなく、実行委員長が学会会長でもありました。これらの事情を汲んでいただき、実行委員会の副委員長として大会開催経験がある日本大学の鳥山正晴会員に、また実行委員の各メンバーにも多くの尽力を頂きました。
 昨年8月に第一回の大会実行委員会をズーム開催し、メンバーの中で、シンポジウム関係と研究・作品発表関係と大まかに役割分担を決め、大会までのスケジュールとシンポジウムの素案を第一通信として発信しました。その後、12月には大学に申請していた学会補助が大学で承認され、大学側の協力も確保できました。続いて第二通信、第三通信で大会までのスケジュール等を告知・確認し、また最終的に大会テーマは、ジェンダー・フェミニズム批評にとって重要な映像研究における女性、情動・身体という理論的な問題系を取り上げ、明治学院大学の映像研究が重要視してきた東アジア圏という地政学的な面と交錯させるテーマとして「東アジア・情動・フェミニズム」というタイトルのもとで、韓国から韓国総合芸術大学校の教授であり、映像作家でもある金素榮(キム・ソヨン)氏を基調講演に依頼し、通訳としてフェミニズム理論と韓国の独立映画の動向と歴史に詳しいファン・ギュンミン氏にお願いすることが決まったことをお伝えしました。コロナ禍で海外の研究者との交流も困難であった数年間が続いておりましたが、今大会では幸いなことにゲスト招聘に関わる諸経費を開催校の予算から捻出することが可能になったため、大会では初めてのアジアから、そして女性に基調講演を行っていただくことができたのは、今大会の意義を高めることになったと思っております。
 今大会の新しい試みとして、①発表の形態としてパネルでの発表申込を試験的に導入し、②参加申込をインターネットで受付け、一般会員に限ってpayventというシステムを使い事前にネット振込を対応可能にしました。若干数の学生会員が誤って振込するなどの事例が発生しましたが、今後の課題として改善対応可能であることも確認でき、初めての試みとしては成功したと言えます。また、参加申込期限のリマインダーを送ったところ、多くの会員の事前申込を頂き、名簿作成、領収書作成などの準備が可能になりました。また、学生アルバイトのマニュアルなどを始め、前回の京都大学の仁井田・辰巳両会員からマニュアルなどをシェアしていただき、大変助かりました。改めてお礼を申し上げます。このマニュアルは、次回の開催校である九州産業大学の実行委員会にも引き継ぐ予定です。
 発表申込は、研究発表が47件、作品発表が6件、またパネルのエントリーは結局ゼロでした。最終的には、研究発表45件、作品発表5件となりました。概要集とプログラム案に関しては鳥山副委員長が中心となって采配していただき、遠方からいらっしゃる会員のことも配慮し、初日の午後13時半開始で基調講演と対談、その後17時半から2時間ほどの交流会、2日目は10時開始で研究・作品発表の全50件を6教室で配置、座長には理事の皆さんに協力を得ました。

2. 大会実施報告
<1日目>
 キム・ソヨン氏には「悲しみが私たちを連れていくところ:哀悼、場所、女性史」と題されたテーマで、自身の映像を多く交えながら、1時間半以上にわたる多くの示唆に富んだ充実した内容の講演をしていただきました。概要集で詳しい略歴を紹介しましたが、金氏は韓国を代表する映画研究者でもあり、『シネ21』を始めとする批評誌でも活躍する批評家でもあり、またアジア圏のさまざまな研究者が集まって活動しているインター・アジア文化研究(Inter-Asia Cultural Studies Society)のコアメンバーの一人でもあり、学会全州映画祭のプログラムや長年ソウル女性映画祭の中心メンバーとして多岐にわたる活動で知られますが、映像作家としても多くの作品を発表してきました。
 今回の講演では、金氏が監督した「女性三部作」(2000~2004)と称される三本のドキュメンタリー作品(『居留』2000、『恍惚境I’ll Be Seeing Her』2003、『元始、女性は太陽であった 新女性Her First Song』2004)の背景を振り返りながら、その後に制作した作品の中から二つのビデオ・インスタレーション『SFdrome:朱世竹』(2018)と『光の収穫:ディアスポラの墓場』(2021)へと考察を広げ、東アジアと近代というクロノトポスと哀悼という情動を闇に光を当てるパフォーマンスとして捉えなおす視点が提起されました。なお、韓国映画や歴史に関するいくつかの重要な用語を簡単に解説したハンドアウトを用意して臨みました。
 講演の前半で女性史三部作を一作ずつ振り返りながら、彼女の映像の中で、女性たちの語り・手紙・隠された文字・追悼という場において、私的な言説を公的な言説に変容させ、個人の歴史を共同体の歴史に連結する試みであることが示されました。後半では、社会主義革命家として知られる朱世竹に関する2作品で、歴史から忘れ去られてきたこのエグザイルとなった女性の存在に光を当て、その軌跡を個人的な記憶と韓国女性の歴史を交差させて、自作の試みをダナ・ハラウェイ、ジュディス・バトラーが提案した概念に関連させながら、闇に埋もれてきた女性たち、マイノリティーの生と歴史を可視化するものとしての映像的実践をいかに遂行するか、という複雑な問題を、トランスナショナルな文脈から考察されました。
 金氏の講演は、女性史三部作だけでなく亡命三部作を含めた金氏の映画的実践が、その理論的な関心の中心をなすテーマであるジェンダーとネイション、とりわけ帝国と植民地が交差する地点で、芸術、政治、文化に携わり、あるいは観客として参加することで自身の生を生き、その痕跡を残そうとした「女性たち」の存在に光を当て、新たに語りなおそうとする試みであることが明らかになる刺激的な内容でした。さらに、今まで日本で上映・公開されたことのある金氏の映像作品『居留――南の女』(2000)と『さらばわが愛、北朝鮮』(2019)から金氏の映像的スタイルがドキュメンタリーの様式に則っている印象がありましたが、講演中に流された多くの映像クリップから、その映像スタイルがさらに実験映画的な様式も駆使した極めて多岐にわたるものであることも多くの参加者を驚かせたのではないかと思います。リアリズムと実験映画的な映像を再構成し、歴史を語るという彼女の試みは東アジアという地政学を踏まえたうえで、映画という「光の実践」が闇に埋もれてきた女性史、女性の語りを新たな「ヴィジョン」として提示できるかという可能性を探求するプロジェクトであることが垣間見られ、さまざまな分野で映像に関わる本学会の会員にとって多くの示唆を与える基調講演となりました。
 講演後は、韓燕麗会員がモデレーターとなり、金氏と斉藤綾子の対談と会場からの質疑応答が行われました。斉藤が講演内容を簡単に振り返り、西洋モデルによる古典的なフェミニズムに対する見解、金氏が試みるアーカイブ的な「再構成」におけるリアリズムに対してどのように考えるか、などの質問に続いて、韓氏からも東アジアという文脈で最近の中国女性監督全体の活動についての紹介があり、最近公開され話題になった『ケイコ目を澄ませて』(中国語タイトルは『恵子凝視』)などを例に、女性を性的対象として「見られる対象」としないというような映像表現は、どのような試みが最近の東アジア映画に見られるのかという点についての質問がありました。また会場からは金氏の映画作りにおけるダイレクト・シネマに対抗するドキュメンタリーという視点があるのではないかという質問を含めて、活発な質疑応答が交わされました。
 反省点としては、会場手配のミスで当日になって予定していた会場が映像上映にふさわしくないことが判明し、急遽別会場になり、参加者にはご迷惑をおかけしましたが大きな混乱もなく変更ができました。また、今回は金氏の講演内容がフェミニズム理論、韓国映画史、さまざまな理論的な枠組みに触れる複雑な内容であったため自身も映画研究者として活躍するファン氏に依頼しましたが、時になるべく正確に通訳を行うために、対話のやりとりの中で逐次通訳に時間がとられてしまう場合がありました。交流会では数名の方から、金氏には英語での講演をお願いしたほうがよかったのではというご意見を頂きましたが、やはり今大会のテーマである「東アジア」という文脈で考えると、金氏には母国語での講演が企画者にとって大きな意味のあることでした。なお、金氏の講演原稿は明治学院大学言語文化研究所の紀要に掲載を予定しております。
 初日の参加者は総120名ほどでしたが、講演後の交流会にも多くの会員が参加して下さり、海外渡航の規制緩和もあり、アメリカから来日中の会員や研究者の姿も見られ、久しぶりの再会を果たした会員同士の会話も弾み、盛会となりました。また講演に対しても「非常に良かった」「予想していた内容とはとても違って、映像も含めて大変刺激的で面白かった」という感想を多く頂きました。

<2日目>
 当日受付は、およそ会員45名、非会員45名でした。1日目の受付と合せて200名ほどの方々に参加していただきました。会員・非会員ともに、多くの学生の方々が参加してくださいました。作品発表では機材を持ち込みなどもある会場もありましたが、会員の方の援助もあり、無事にセッティングし上映できたと伺っております。また発表によっては、多くの参加があったため会場が手狭になってしまうケースもあり、一部の会員の方にはご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。
 発表者のみならず、参加してくださった方々のご尽力もあり、多くの発表で活発な質疑応答が行われ、特に大学院生や若手研究者にとっては非常に有意義な経験となったと思います。最後の発表終了後でも、多くの会員が残り、交流を続けていたことが印象的でした。また、多くの会員から、大会が首尾よく終わったこと、内容が充実して良い大会だったという好意的な感想のコメントも頂きました。やはり、学会にとっては、年一回ではありますが、全国から会員の皆様が研究や作品を発表し、研鑽と議論を共有する場がいかに大切な機会であるかを改めて認識いたしました。
 会場運営も大過なく進行しましたが、事前にネットで参加申込と振込をしてくださった会員が当日不参加になるという事例が発生し、その手続きに関して事前に皆さまに周知をしておくべきだったという反省点はございました。その他運営上の細かな反省点や改善点については、次回の開催校である九州産業大学の大会実行委員会に引き継いでいきます。
 今回の反省点と教訓を活かし、また大会時に総会の実施の可能性を探ることなども含め、大会実行委員長としてまた会長として、今後の大会のよりよき運営に向けて、理事会でも検討を続けていきたいと思っております。
 なお、発表の座長として、多くの理事の皆様にご協力を頂きました。各自お名前を挙げることは控えますが、ありがとうございました。

3. 会計報告
【詳細は、会報198号を参照】

 また、内輪のこととはなりますが、明治学院大学文学部芸術学科の教学補佐(佐々木香織さん・和田汰子さん)には大会運営の事務的な面で全面的な協力を頂きました。また、当日は明治学院大学文学部芸術学科と芸術学専攻の学生バイトの皆さんの活躍によってスムーズな会場運営が可能になりましたことをここに申し添え、謝意を表したいと思います。最後に、初めての大会開催でその運営にはまったく不慣れで、右も左もわからない会長を支えてくださった理事の皆さま、学会事務局および実行委員会のメンバーに対して、特にすべての面においてサポートしてくださった副委員長の鳥山正晴さんに心よりお礼を申し上げます。そして、会員の皆様の積極的なご参加とご協力あっての大会でした。皆様に改めて感謝申し上げます。