第47回大会[2021年]報告:愛知県立芸術大学(オンライン開催)

日本映像学会第47回大会
2021年6月5-6日
主催校:愛知県立芸術大学(オンライン開催)
実行委員長:関口敦仁
大会実行副委員長:森真弓

日本映像学会第47回大会報告
実行委員長 関口敦仁(愛知県立芸術大学)

1.大会開催まで
 日本映像学会第47回大会は2021年6月5日、6月6日の二日間に渡って開催された。愛知県立芸術大学での開催は、1999年の第25回大会の名古屋市立大学との共催以来となった。
 対面での開催を目指したが、46回大会に引き続き、オンライン開催となった。3月の理事会では当初、対面での開催を進めたが、4月に入り感染状況が再び悪化し、感染拡大の第4波の兆しがありということで、会長はじめ理事会の決定により、対面の準備からオンラインの準備へと変更を進めた。概要集やプログラムなどの変更などを急ピッチに行い、また、46回大会実行委員長からオンライン開催のノウハウなどを伺いながら進めた。
 また、今大会での大きな変更点としては、申し込み時に発表概要の文字数を一回で最終文字数1000字とし、これまでの予備審査のための少ない字数での申し込みをなくし、最終発表概要に近い文字数の文章から、発表の採用審査が行われるようになった。作品発表についてはこれまでと同じ400字以上とした。
 また、それに伴い、45回大会から始まったWebサイト上からのオンライン申し込みに加え、発表概要を記述する発表申し込みのフォーマットを、大会Webサイト上からダウンロードし、それに記入してアップロードするシステムを導入し、申し込みを簡潔にできるようにした。
 多少、使い方に不明瞭な面もあったが、特に問題なく、扱いやすく申し込みが進められた。オンライン開催決定前に、大会参加申し込みをすでにはじめていたので、その方達には変更のご連絡を学会の通信として行った。
 大会の開催にあたって、研究発表の申し込みは35件、作品発表の申し込みは6件あり、合計41件、内、申し込み辞退が1件、オンライン化による発表辞退が1件あり、研究発表の申し込みは34件、作品発表5件、計39件の研究、作品発表となった。

2.大会実行体制
大会実行にあたり、以下の組織で実行した。
第47回大会実行委員会
委員長:関口 敦仁 (愛知県立芸術大学)
副委員長:森 真弓 (愛知県立芸術大学)
委員:石井 晴雄 (愛知県立芸術大学)
委員:伏木 啓  (名古屋学芸大学)
委員:宮下 十有 (椙山女学園大学)
委員:村上 将城 (名古屋学芸大学)
委員:片山 一葉 (椙山女学園大学)
委員:平川 祐樹 (愛知県立芸術大学)
・セッション司会/管理
小倉 史 (愛知淑徳大学)
前田 真二郎  (情報科学芸術大学院大学)
吉村 いづみ  (名古屋文化短期大学)
酒井 健宏  (名古屋芸術大学)
池田 泰教  (静岡文化芸術大学)
青山 太郎  (名古屋文理大学)
山本 努武  (名古屋学芸大学)
斎藤 正和  (名古屋学芸大学)
加藤 良将  (名古屋芸術大学)

大会準備、実施にあたり、対面を前提とした場合では、総合、会計管理を関口、現場での発表、展示管理を森真弓、WEB構築や概要集作成を石井晴雄として、体制を進めていた。オンラインに変更されたため、概要集作成、会計管理、オンライン設定、各種企画、連絡を関口が、発表申し込みなどのML管理、シンポジウムの環境構築を森真弓、WEBの作成、管理、修正を石井晴雄が行い、主に同大学内で進行を進め、実行委員会で確認を行いながら進めた。Zoom仕様によるオンラインの接続テストは伏木啓、宮下十有、村上将城、片山一葉を中心に進め、5月に入りセッション司会/管理メンバーとともに、テストを重ねた。
 講演/シンポジウムではWebinarでの経験者がいなかったため、46回委員長の門林氏や事務局三浦氏から助言をもらいながら準備を進めた。配信時のスイッチングについては、平川祐樹のサポートで行った。皆、不慣れな中で、無事開催できたことに改めてお礼を申し上げたい。

3.開催形態について
 1日目の開会の辞、講演/シンポジウムはZoom Webinar での開催として、リンクからの登録による一般参加可能とした。
 こちらは登録リンク先をWEBに掲載した。
 1日目、2日目の研究発表/作品発表はZoom Meetingでの開催とし、学会員のみ、参加できるようにした。
 こちらは登録不要だが、会員ページと会員のみがダウンロード可能な概要集にリンク先とパスワードを掲載し、参加できるようにした。

●講演、シンポジウム参加数
ウェビナーログより
総登録者数: 232、視聴者: 206、合計ユーザー数: 294、同時ビューの最大数: 182
研究発表の参加者数は総合計ユーザー数で848人
セッション別合計ユーザー数でAセッション254人、Bセッション262人、Cセッション177人、Dセッション155人。
時間別の参加者数は5日セッション1回目89人、2回目92人、3回目78人。
6日午前のセッション1回目82人、2回目99人、3回目77人。
6日午後のセッション1回目79人、2回目94人、3回目86人。

別表1
日本映像学会第47回大会参加者数一覧
【詳細は、会報192号を参照】

4.大会の進行
 大会バナーを作成し、告知を行った。
 昨年就任されてから、これまで対面の機会がなかった、斉藤綾子会長に挨拶をお願いした。
 コロナ禍でご苦労されている会員の方々への声がけや大会開会に当たっての抱負について、また、最終セッション後の閉会の辞の告知をした。

●講演:
「ポスト・ドキュメンタリーの時代、あるいは映像とアートの質的変容」
越後谷 卓司(愛知県美術館主任学芸員)
越後谷 卓司;プロフィール
1964年東京生まれ。
88年、多摩美術大学卒業。
91年、筑波大学大学院修了。
同年から愛知県庁に勤務し、愛知芸術文化センター・愛知県文化情報センター学芸員をへて、2014年より、同センターの愛知県美術館主任学芸員(映像担当)。「アートフィルム・フェスティバル」や「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」を担当。近年では2019年小田香「セノーテ」愛知芸術文化センターオリジナル映像作品第28作、や2018年小森はるか「空に聞く」愛知芸術文化センターオリジナル映像作品第27作などを担当。また近著として、ドキュメンタリー叢書『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』neoneo 2020年に所収の[「映画国」のエヴァンゲリスト一九六〇~九〇年代のメカス受容から]など。

 講演では、本大会実行委員会から「ポストドキュメンタリー」という語が投げかけられたことをきっかけに越後谷氏が、この機会をポジティブに捉えて、これまで氏が企画に関わってきた作品とともに考えたことが語られた。
 森達也監督の著書『ドキュメンタリーは嘘をつく』を取り上げ、フィクション=虚構性で、ドキュメンタリーも、現実に取材しつつ、それを再構成するのだから、現実そのものであることはあり得ないという点を挙げた。そして、「ポストドキュメンタリー」という言葉をどのように捉えるのかという点で、近年さかんに用いられた『フェイクニュース』と「オルタナティブファクト」という言葉を取り上げ、あえてその言葉を用いる理由については「それは、ことばに力があるからだと思います。言葉の力によって現実を変えてしまう、変えたいという意図があるのではないか。」と述べた。昨年出版された映画監督の吉田喜重さんと船橋淳さんの対談『まだ見ぬ映画言語に向けて』を取り上げて、ドキュメンタリーもまた、フィクションの一種である、という両監督が共有するスタンスについて、越後谷氏が吉田監督の撮影の現場に立ち会った経験からの話をされた。愛知芸術文化センターの愛知県文化情報センターで映像を担当する学芸員として勤務しはじめた時期に、愛知県が制作する『愛知の民俗芸能』の撮影において、奥三河の豊根村で行われた「花祭り」は「今もドキュメンタリーとして分類はされているが、むしろ文化映画と呼ぶ方がふ
さわしい作品で、「イメージプラン」シナリオもあって、県内の複数の民俗芸能を取材して一本にまとめるというものでした。」
 「「ポスト・ドキュメンタリー」というテーマから、はじめに浮かんだ作品は氏が担当している「オリジナル映像作品」というシリーズの小森はるか監督の『空に聞く』と小田香監督『セノーテ』です。」「これらの長期滞在して撮るスタイルからは『愛知の民俗芸能』とは違い、当然、それによって生じる映像の質感も異なり、リアリティの感触も変わってくる訳だと。」これらの作品に関しては、ジョナス・メカスやフレデリック・ワイズマンとの近似性を指摘され、シネマヴェリテやダイレクトシネマからの流れについても言及された。そして、近年のメディアの発展による、ニュースなどのライブ映像の影響についても言及し、特に「9.11や3.11の映像体験」という言葉によって、あらかじめ構成された映像をドキュメンタリーとして受け取りがたくなっている側面も指摘した。
 その上で、小森監督や小田監督のようなスタイルの映像の方がリアリティがあると感じられるようになって来たと言えるだろうと述べた。
 また、パネラーの前田真二郎氏の作品『王様の子供』も「愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品」シリーズで、製作されている。「SF的な時代設定で原発やその後処理の問題について、暗喩的に触れている作品で、90年代後半に公開されて、フィクションであるが、3.11以降に上映の機会を作ると、観客の反応は全く違う、一種の予言的な作品だ、というふうになってゆくのです。」と述べて、フィクションの有効性はドキュメントに先行した場合、それが表現の有効性へと接続する点であることも示唆した。前田氏は3.11以後のドキュメントアーカイブを多くアーティストに依頼した作品も公開している。
 そして、アピチャッポン・ウィーラセタクンなどのように、展示系映像作品として現代美術展に出品する作家とその作品について、劇場で椅子に座ってみることと、美術館での展示される映像作品をそれぞれ作る意味について言及された。

●シンポジウム:
「講演を受けて:ポスト・ドキュメンタリー時代の表現について」
パネリスト:小田香、前田真二郎、越後谷卓司、司会:関口敦仁

前田 真二郎:プロフィール
1969年大阪生まれ. 映画, メディアアート,ドキュメンタリーなどの分野を横断して, イメージフォーラムフェスティバル, 恵比寿映像祭, 山形国際ドキュメンタリー映画祭などで発表. 舞台や美術など他領域アーティストとのコラボレーション, 展覧会の企画も積極的にすすめている. 2005年よりDVDレーベル SOL CHORD を監修. WEBムービー・プロジェクト”BETWEENYESTERDAY & TOMORROW”が, 第16回文化庁メディア芸術祭・アート部門にて優秀賞を受賞(2012).
モノローグ・オペラ『新しい時代』(三輪眞弘+前田真二郎)が,第17回佐治敬三賞を受賞(2018).

小田 香:プロフィール
1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー/アーティスト。
2013年、映画監督のタル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factory (映画制作博士課程)に第1期生として参加し 、2016年に修了。2014年度ポーラ美術振興財団在外研究員。
ボスニアの炭鉱を撮影した第一長編作品『鉱 ARAGANE』(2015) が山形国際ドキュメンタリー映画祭・アジア千波万波部門にて特別賞を受賞。その後、リスボン国際ドキュメンタリー映画際、マル・デル・プラタ国際映画祭、台湾国際ドキュメンタリー映画祭などを巡り、2018年国内劇場公開。
メキシコの水中洞窟を撮した最新長編『セノーテ』は山形国際ドキュメンタリー映画祭、ロッテルダム国際映画祭など各国で上映された後、2020年
劇場公開。
2020年、第1回大島渚賞を受賞。
2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

 シンポジウムでは越後谷氏の講演内容に対して、パネリストからは製作者の視点での言葉が投げかけられた。前田氏からは今の時代のメディアによって、新たな視点が見えて来ているのではないかという見解から、新たな映像制作の評価についての問いが提案された。小田氏からは撮影の現場でのダイナミズムから生まれる発見の断片をいくつも示され、それらが紡がれて、一つの作品が構成されいくような感覚が与えられた。
 今回もWebinarでの一般参加が可能なこともあり、参加者は200名を超え、関心の高いテーマでもあったのかと思われる。内容は表現者寄りの話が多く、製作者の立場の新たな視点を探る姿勢を、ポジティブな側面から示そうという司会者の意図もあり、その点は伝えられるシンポジウムであったかと感じている。その一方で、研究者からは、言葉の定義について論理的な議論を求めていた面もあり、最後にそのような質問もあった。

●研究発表/作品発表
 当初、対面で7セッションに分かれて行う予定だったが4セッションとして、Zoom配信の管理担当とセッションの司会担当がセットとなって進行した。発表者には発表のための接続方法や名前の前に概要集のページ番号を入れてもらい、司会者がすぐに判別できるように工夫した。そのせいもあってか、各セッションでスムーズな進行が行われた。
 セッション最後において、会長からの閉会の辞と次回大会のお知らせを行った。
 研究/作品発表は前回に引き続き今回も参加者を会員に限定しているが、対面のように参加費を払えば参加できるのかなど、また、オンラインが常識化し、参加できる環境が整備されてきた面も考慮し、ハイブリッド開催の可能性も含め今後検討する課題もあるだろう。

5.会計報告
本大会の会計を別表2に示す。
【詳細は、会報192号を参照】

*付記
発表概要集の制作にあたっては、第46回大会概要集のデザイン(éditions azert)を参照しましたが、事前の了解を得ずに進め、ご迷惑をお掛け致しましたことをここにお詫び申し上げます。