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日本映像学会 写真研究会
2019年 第4回研究発表会開催のお知らせ
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日本映像学会会員各位
写真研究会の研究発表会を下記のとおり開催致します。
皆様のご来場をお待ちしております。
日本映像学会写真研究会
代表 前川 修
【日時】
2019年9月23日(月祝) 13:30開始 18:00終了予定
発表後に質疑応答の時間があります。
【会場】
〒461-0005 愛知県名古屋市東区東桜1丁目13−2 愛知芸術文化センター
12階 アートスペースEF
交通アクセス:https://www.aac.pref.aichi.jp/access.html
【発表者・発表内容】
発表1
「1976年日本におけるオリジナル・プリントの問題―深瀬昌久の活動を通して」
ヴォワイヨ・エリーズ(フランス国立東洋言語文化学院(Inalco)博士課程、東京大学特別研究学生)
発表2
「ロイヤリティーフリー・アート?——オンライン・ストックフォトと写真作品」
永田康祐(東京藝術大学大学院映像研究科博士後期課程)
発表3
「写真の「向こう側」を考える」
水野勝仁 (甲南女子大学文学部メディア表現学科)
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【発表要旨】
1976年日本におけるオリジナル・プリントの問題―深瀬昌久の活動を通して
ヴォワイヨ・エリーズ
(フランス国立東洋言語文化学院(Inalco)博士課程、東京大学特別研究学生)
従来、写真家深瀬昌久 (1934-2012)の作品は「私写真」という観点から論じられてきた。彼のもっとも有名なシリーズ『鴉』は1976年に制作が開始されたが、それらの写真は同年に離婚した彼の孤独の表象として読まれてきた。しかし1976年は、深瀬が離婚した年であると同時に、彼が参加していた「WORKSHOP写真学校」と『アサヒカメラ』の間でオリジナル・プリントをめぐる論争が生じた年でもある。
1976年2月、「WORKSHOP写真学校」が企画した「写真売ります」展覧会では、12人の有名な写真家たち(深瀬、荒木経惟、東松照明、細江英公、森山大道、奈良原一高など)が集まって、自分たちのプリントを展示・販売した。この企画に対して、中平卓馬、北井一夫、そして一部の批評家たちは、写真をオリジナル・プリントとして売る彼らの姿勢を『アサヒカメラ』誌上で激しく批判した。この1976年に生じた言説には、二つの強く対立する流れを見出すことができる。ひとつは、カメラ雑誌が盛んだった1960年代までの流れ、つまり写真を主にマスメディア=複製可能な印刷物として考えるというものである。もうひとつはアメリカからの影響を受け始めた1970年代以降の流れであり、そこでは写真を作家の制作物として捉え、それらの作品をアートマーケットに統合するという考えが広まり始めていた。
この言説を踏まえた上で『鴉』シリーズをあらためて見ると、「私写真」とはまた違う意味をそこに見出すことができるのではないかと思われる。深瀬は1976年に発表した『鴉』でプリントの展示を本格的に始めるが、本発表では、このシリーズを雑誌から展示への転換を象徴するものとして見ることを試みる。また、『鴉』に続いて80年代、そして最後の1992年の展覧会までの深瀬の仕事を確認し、彼のなかで写真を「マチエール」として捉える考え方が展開していく過程を追っていく。この1976年と深瀬の仕事を出発点にすることによって、70年代日本とアメリカの間で生じていた写真をめぐる制度的、思想的な対立が現在に至るまでの写真実践に影響を与え続けていることを明らかにしたい。
ロイヤリティーフリー・アート?——オンライン・ストックフォトと写真作品
永田康祐
(東京藝術大学大学院映像研究科博士後期課程)
本発表では、主にShutterstockやGetty Imagesをはじめとするオンライン・ストックフォトやその文法を用いた、ないしはこれらのヴィジュアル・コンテンツ産業の構造を作品へと反映させている芸術作品について扱う。そうした作品は2000年代後半のポストインターネット・アートと呼ばれるムーブメントのなかでみられるが、本発表ではそのなかでも特にカーチャ・ノヴィツコーワ、ティムール・シー=クィン、DISといったアーティスト、アーティスト・コレクティブに注目する。これらのアーティストは、オンライン・ストックフォトで流通するようなイメージを積極的に利用し立体作品やインスタレーションを制作したり、自らオンライン・ストックフォトのサービスを立ち上げ、通常では流通しないような画像を提供するプロジェクトを行ったりしている。
本発表が目的とするのは、①オンライン・ストックフォトのもつ社会的、政治的機能について整理し、②そうした機能との関係においてこれらの作品の批評性について論じること、そして③これらの作品の独自性を指摘することである。これまでオンライン・ストックフォトに関する研究は国内外で多く行われており、またジャーナリズムや司法写真などの芸術作品ではない写真と芸術作品の関係もしばしば論じられているが、オンライン・ストックフォトと芸術作品の関係についてはあまり論じられていない。写真文化におけるインターネットの影響がもはや指摘するまでもないほどに自明になっているなかで、インターネット上の画像の多くを担っているオンライン・ストックフォトと芸術作品の関係を論じことは有用であるだろう。また、これらの作品をはじめとするポストインターネット・アートは、80年代のアプロプリエーション・アートの手法としばしば混同されており、これらの作品がどのように過去の実践と差異化されうるかについても検討する必要がある。
本発表では、ポール・フロッシュの『イメージ・ファクトリー』と東浩紀の『動物化するポストモダン』を補助線にして、オンライン・ストックフォトを、産業化されたN次創作の場という観点から論じ、そのうえで、これらの作品のもつ批評性について、オンライン・ストックフォトにおける「アーキテクチャの権力」という観点から分析する。
写真の「向こう側」を考える
水野勝仁
(甲南女子大学文学部メディア表現学科)
私たちが使用しているグラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)はイメージに対する「操作」を導入して、「視覚」と「触覚」とが隣り合う場として機能したからこそ、あたらしい「視覚」と「触覚」とのバランスをつくりだし、「奥行き」とは異なるウィンドウの重なりによる「向こう側」を意識させる平面をつくることに成功した。しかし、正面から見たGUIには、複数のウィンドウのあいだに「隙間」はなく、そこには「シミュレートされた重なり」があるだけである。「シミュレートされた重なり」は「視覚」としては重なっているが、そこには段差はなく「触覚」としては重なっていないと言える。このよう状況で、GUIを正面から体験しているユーザは、複数のサーフェイスの重なりを認めて、それらを入れ替えながら、「視覚」と「触覚」とが隣り合って生じるあらたな感覚を蓄積していく。この感覚はスマートフォンのタッチ型インターフェイスによって、より増強されているだろう。
永田康祐やアーティ・ヴィアカントといったPhotoshopなどの画像編集ソフトウェアをツールとして当たり前に使用する作家たちは、「シミュレートされた重なり」を操作不可能な一枚の写真に接着した作品を多く制作している。それらの作品は、見る人に「何かしらの操作が行われたのではないだろうか」という「問い」を抱かせてしまう。なぜなら、ユーザに蓄積されているGUIを経由した「視覚」と「触覚」とがあらたに交じり合った「向こう側」への感覚が、作品に否応なく反応してしまうからである。見る人はその「問い」に抗うことができないまま、作品のなかに「操作履歴」を見出そうとする。しかし、作品は「単なる一枚の平坦な画像」となっており、そこには「触覚」と密接に結びついた「操作履歴」を見出すことはできない。そのため、「問い」とともに生じた「操作履歴」は行き場をなくし、作品を見る者のなかに触れる対象がない「奇妙な触覚」として残り続けると考えられる。
本発表では上記のポストインターネット的状況を振り返りつつ、「視覚」と「触覚」とが隣り合うあらたな感覚をソフトウェアによるイメージの操作ではなく、写真というモノの操作でつくりだした作品の考察を行いたい。池田衆の個展「「Object and Image」で展示された《Pomegranates #1》は、写真を切り抜いて作成されており、写真の「奥行き」を示す「黒の背景」と「向こう側」を示す「黒い線」とが共在する作品である。《Pomegranates #1》では、写真の「切り抜き」という行為がモノとイメージとを隣り合わせる「接着剤」となって、「視覚」と「触覚」とが隣り合う場を形成していると考えられる。デジタルを経由した写真には、GUIやタッチ型インターフェイスと同様に「視覚」と「触覚」とが隣り合う場があり、それが写真の「向こう側」を考えさせてくれるのではないだろうか。
参考文献・URL
– 郡司ペギオ幸夫『天然知能』,講談社,2019年
– 永田康祐「Photoshop以降の写真作品───「写真装置」のソフトウェアについて」,『インスタグラムと現代視覚文化論 レフ・マノヴィッチのカルチュラル・アナリティクスをめぐって』.BNN新社,2018年
– 池田衆 個展「「Object and Image」,Maki Fine Arts,http://www.makifinearts.com/jp/exhibitions/ikeda2019.html
以上
日本映像学会写真研究会
代表 前川修
〒657-0013 兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1
神戸大学人文学研究科 前川修研究室