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日本映像学会 写真研究会
2023年度第11回研究発表会開催のお知らせ
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日本映像学会会員各位
写真研究会の研究発表会を、対面、オンライン併用にて開催致します。皆様のご参加をお待ちしております。
日本映像学会写真研究会
代表 佐藤守弘
https://sites.google.com/site/jasiasshaken/
▼開催概要
日時
2023年8月26日(土) 13:00開始 17:30終了予定(日本時間)
場所
同志社大学今出川キャンパス 至誠館S4教室、およびリモート配信
参加方法
*事前申し込み制
上記会場にての対面とリモート配信でのハイブリッド方式で開催いたします。会場参加、リモート参加とも、こちらのフォームからお申し込み下さい。いただいたメールアドレスに参加方法をお知らせします。
https://forms.gle/rWXrfMZ23syoyQup7
なお、先着順で会場定員が埋まってしまった場合は、リモートでの参加をお願いすることもありますので、その場合はご了承ください。
▼報告者・報告内容
書評会
「金井直『像をうつす——複製技術時代の彫刻と写真』を読む」
書評者:岩城見一(京都大学名誉教授)、高橋沙也葉(京都大学大学院)
執筆者:金井直(信州大学) 司会進行:中村史子(愛知県美術館) 企画者:青山勝(大阪芸術大学)
研究発表
「明治日本の記録と記憶:横浜写真アルバムのアルバムという形式について」
足立奈緒子(東京国立博物館)
展覧会報告
「今森光彦 里山 水の匂いのするところ」展
芦高郁子(滋賀県立美術館)
▼報告の要旨
金井直『像をうつす——複製技術時代の彫刻と写真』を読む
書評者:岩城見一(京都大学名誉教授)、高橋沙也葉(京都大学大学院)
執筆者:金井直(信州大学) 司会進行:中村史子(愛知県美術館)
新古典主義の彫刻家アントニオ・カノーヴァなどに関する学術的研究ばかりでなく、さまざまな現代美術展の企画でも広く知られる金井直氏による初の単著『像をうつす——複製技術時代の彫刻と写真』が昨年末に上梓された。本書は、「写真」と「彫刻」という2つの、一見対極的とも思われるメディアのあいだに、実は多くの「共通性や親和性、相互依存などさまざまなつながりがあること」を明らかにした注目すべき著作である。写真の黎明期から現代にいたるまで両者のあいだに生じたさまざまな交差に、金井氏は丁寧に聴診器を当て、両者が「絶えず互いに関わり、呼びかけ合うさま」を見事に浮かび上がらせた——主な登場人物は、トルボット、ロダンとロッソ、ブランクーシ、D・スミス、そしてペノーネだ。
この刺激的な著作が出版されて半年が経過し、そろそろ、本書が響かせる「彫刻と写真のこだま」をさらに増幅させるための機会をもつべきであろうと考え、今回、この書評会を企画した。
1人目の書評者は、金井氏を学生時代から知る京都大学名誉教授の岩城見一氏にお願いした。美学・芸術学の立場から、本書の意義や課題について自由に批評していただくことになるだろう。2人目の書評者は、リチャード・セラを中心として戦後アメリカ彫刻におけるドキュメンテーションに関する研究を進めておられる高橋沙也葉氏にお願いすることになった。
本書評会が、中村史子氏の司会進行のもと、『像をうつす』で触れられた話題を深く掘り下げ、あるいは新たな話題を掘り起こす機会となることを期待している。書評者以外の方々にも積極的な介入をぜひともお願いしたい。(企画:青山勝〔大阪芸術大学〕)
研究発表
足立奈緒子(東京国立博物館)
「明治日本の記録と記憶:横浜写真アルバムのアルバムという形式について」
1860年頃から日本で発展した横浜写真は、開国以降、主に欧米を始めとする海外からの渡航者の土産品として人気を博した。当時最新の技術を使った着色鶏卵紙写真は数多く販売され、北米や西ヨーロッパなどからの旅行者と共に世界各地へ渡った。これらの写真は輸送や保管のためにアルバムに綴じられることも多く、日本を代表するイメージの一つとして海外に渡った。アルバムには蒔絵の表紙の中に50枚程度の着色写真が含まれており、現在も国内外の図書館や博物館などに数多く現存している。土産用の写真アルバムは、日本写真の黎明期を代表するものであり、海外にどのような日本のイメージを生み出したかを伝えるだけでなく、その特殊な形式によって写真に特別な意味を持たせたものとして重要だと考えられる。本発表では、このような横浜写真アルバムを調べ、日本のイメージを形成する上でアルバムという形式がどのような効果を与えたかについて考察する。
まず、横浜写真アルバムについて、一般的なアルバムの構成について述べ、調査対象のアルバムの特徴を確認する。次に、様々な背景のアルバムの例を取り上げ、アルバム制作の対象となった19世紀後半の欧米という環境とアルバムにまつわる当時の文化、さらに近代以前に日本で制作されたアルバムについて調べることによって、アルバムには記録や資料としての役割だけではなく、アイデンティティや思想の形成にもつながるという特徴がある事を指摘する。横浜写真アルバムは、写真を選択し貼付するという編集を経て蒔絵表紙で装丁された「モノ」として、西洋においての日本との距離感を複雑化したと言える。
展覧会報告
「今森光彦 里山 水の匂いのするところ」展
芦高郁子(滋賀県立美術館)
滋賀県立美術館では、2023年7月8日から9月18日まで、「今森光彦 里山 水の匂いのするところ」展を開催している。
今森光彦は、1954年、滋賀県大津市生まれ。第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞をはじめ、数々の賞を受賞している写真家である。学生の頃から世界各国を訪問し、熱帯雨林から砂漠まで、その自然に生きる生物とそれらを取り巻く環境を撮影。『昆虫記』(1988年、福音館書店)や『世界昆虫記』など昆虫の生態写真でも知られている。1992年、写真雑誌『マザー・ネイチャーズ』夏号に「里山物語」を発表。以後、滋賀・仰木地区の琵琶湖を望む田園風景の中にアトリエを構え、自然と人との関わりを「里山」という概念を通して撮影し続けている。
本展は、今森の「里山」シリーズを、水の循環をテーマに再構成したものだ。滋賀には琵琶湖がある。今森の撮影地である奥山や棚田、雑木林などの奥地を撮影していても、必ずどこかで琵琶湖が見える地形に位置している。奥山に鎮座する大樹、雑木林の苔、棚田の水面、全てに水の気配があり、どこを撮影していても、地中を流れる水とそれに繋がる琵琶湖の存在を意識する、滋賀の里山とはそういう場所であり、このことをテーマに展示を構成しようと考えた。第一章 はじまりの場所(奥山)、第二章 萌木の国(雑木林)、第三章 光の田園(棚田)、第四章 湖辺の暮らし(かばたや漁場)、第五章 くゆるヨシ原(ヨシ原)、第六章 還るところ(琵琶湖)といったように、里山における水の流れを意識した章立てになっている。
本発表では、本展開催の経緯やプロセスを報告するとともに、自然写真における人の営みのあり方を今森の作品から分析してみたい。