【日本映像学会西部支部 2022年度 研究例会・総会のご案内(3月26日(日))】
下記のとおり日本映像学会西部支部2022年度研究例会・総会を開催いたします。
対面のみでの実施です。
万障お繰り合わせの上ふるってご参加ください。
日時:2023年3月26日(日) 14:00~17:30
(発表14:00~、総会17:00~)
場所:九州産業大学芸術学部17号館6階 デジタルラボ601
(九州産業大学アクセス https://www.kyusan-u.ac.jp/guide/summary/access.html)
1)高 戈(九州産業大学大学院芸術研究科博士課程3年)作品発表
タイトル「映像インスタレーション作品『束縛』についての考察」
『束縛』は、2022年に制作された、映像インタレーション作品で、人が二人座ることができるソファーと円形の光ファイバースクリーンで構成している。
ソファーには、人が座る座面の左側に、8万本以上の光ファイバーを使い、人の尻のサイズに合わせた小さなスクリーンがある。ここには、ソファーの座面に人が座った跡の皺を一年間写真で撮影した映像が映っている。ソファーの皺からブラックホールへと変化する映像は、孤独の痕跡を表している。
円形光ファイバースクリーンは、ソファーの前に置かれ、観客はソファーに座りながらリビングルームでテレビを観るように体験する。スクリーンは直径が80cm、50万本以上の光ファイバーを円形の金具で固定した。光ファイバーはその形の自由度から、象徴的な意味を表現できる。また光ファイバーの実験を行うなかで、光ファイバーそのものの美しさを発見したため、ソファーに加え円形のスクリーンも作ることにした。
円形スクリーンにはプロジェクタによって映像が投影されている。光ファイバーは、片方の端から入った光を、もうひとつの端から一対一で出力するため、両側から同一の映像を観ることができる。この特性は、インターネットなどの光情報通信のインフラとして使用されている。今回の作品では、遠く離れた別の国同士が共有する、海底の光ファイバーケーブルの横断面を象徴しながら、情報データが互いに伝送される様子を象徴している。
映像は、人が都市の中で歩いたり走ったりするシーンを360度カメラで撮影したものである。人が時計の針のように動く様子は、ハムスターホイールのなかのネズミのように、いくら走ったとしてもそこから逃れることができない様子を表している。
ソファーと円形光ファイバースクリーンの映像は、時々入れ替わりながら繰り返す。この作品は現代の日常生活において、人がインターネットとスクリーンから離れられないことを表現している。
2)有吉末充(法政大学非常勤講師)研究発表
タイトル「アニメーション制作ワークショップのアクティブラーニングとしての効果」
この30余年のあいだ、神奈川、京都、東京で児童、学生、大人向けのアニメ制作ワークショップを開催してきた。
当初はアニメの制作技法の指導を目的にしていたが、現在はコミュニケーションを学ぶためのアクティブラーニングとしての側面を重視するようになった。
この変化には、ふたつの要因がある。ひとつは、有吉の学校図書館司書として探求学習(調べ学習)の指導に参加した経験で、調べ学習として効果を上げるためには、これまでのような情報探索指導だけではなく、メディア表現法の指導も必要であること、そして「研究発表をより良い形で仕上げる」という課題の達成のためには指導者(教師、司書)と生徒間、生徒と生徒間のコミュニケーション、コラボレーションがなによりも重要であることの発見である。この経験は有吉が参加した日本図書館協会の情報リテラシー指導ガイドラインにも反映されている。もうひとつは継続的にワークショップに参加している児童、生徒の人間関係に大きな変化が現れたことの発見である。彼らは互いに協力したり批判したりすることを通して、次第に相互の人間関係を成長させ、目標の達成というゴールにこぎ着けたことによって、自己肯定感を獲得していったように見える。
このような経験をもとに現在ではワークショップのプログラムを、チーム活動メインにし、そのメンバー間での話し合いを促し、その中で協力関係を作り出して、「限られた時間の中で作品を完成させる」という課題に取り組むためのアクティブラーニングとして組み立てる方向に変化させてきた。
今回の発表では、これまでのワークショップのあり方の変化について総括し、最近の府中市でのワークショップでの成果もふまえて、今後の展開を探りたい。
3)佐藤慈(九州産業大学芸術学部)研究発表
タイトル「教育・研究分野におけるデジタルサイネージの可能性」
デジタルサイネージは、屋外や店舗に設置された画像表示機器を通して、広告、販売促進、情報提供などを目的としたコンテンツを表示するシステムの総称である。人の注意を引きやすい動画やインタラクティブ性のあるコンテンツを利用できることから、従来のポスターや看板に代わる新しいメディアとして活用が広がっている。
九州産業大学芸術学部では、地域の文化や産業の振興を目的とした産学連携活動において、学生が主体となってデジタルサイネージを制作するプロジェクトを実施してきた。例えば、学生によってリ・デザインされた博多人形の広報・宣伝を目的としたプロモーション動画および双方向型デジタルサイネージ、博多帯と着物のコーディネートをシミュレーションできるプロジェクション・マッピング、学生と大川市の家具メーカーのコラボレーションによって開発された商品の展示会場における接客コンテンツ、久留米織のデザイン嗜好調査を目的としたデザインシミュレーター、福岡の伝統的工芸品の魅力を若年層に伝えるための3DCGアニメーションなどが挙げられる。
デジタルサイネージは、動画や音声の活用による訴求力の高さに加え、新しいデジタル技術を取り入れやすいことから、学生の技術力や応用力の向上などの教育効果も期待できる。また、コンテンツを企画するにあたり、地域の歴史や文化について調査する必要があるため、地域学習と技術修得の機会を統合的に提供することができる。さらに、さまざまなセンサーを活用して、視聴者に関するデータを収集することで、学生や連携企業・団体へのフィードバックも可能となってきた。今回の発表では、これまで実施したプロジェクトの成果について報告するとともに、教育・研究分野におけるデジタルサイネージの可能性について考察する。
4)斉 琛(九州産業大学大学院芸術研究科博士後期課程2年)作品発表
タイトル「ビデオアート作品『meta-』について」
映像作品『meta-』は、7つのチャプターによるビデオアート作品である。実験映像のノンリニアな物語スタイルを継承しながら、ユングの提唱した「アニマ(anima)」と「アニムス(animus)」をテーマとしている。男性のたくましい肉体には、「アニマ anima」と呼ばれる女性像が内在し、女性の繊細な心には男性像「アニムス animus」が潜んでいるというものだ。アニマとアニムスは、ラテン語の「アニマ」(魂, soul)と、「アニムス」(精神, spirit)に由来するが、両者はある程度交換可能な概念として捉えられる。私たちの意識的な態度がどうであれ、無意識はしばしばそれと対立する見解を抱いており、無意識が異性の「人格」を担っていることを示唆する。
またアニマは、無意識の中の男性と「陰」に関わる側面を表し、アニムスは、女性の潜在的な「陽」を表すと理解することができる。それらはどちらも「生命を越えたもの」として捉えられ、私たちのイメージの中である種の強力な印象形成の力を持つ。
本作で使用したショットには、身体の写真と抽象的なイラストのコラージュや、生物実験室にあるヒト胚性細胞の映像などがある。各細胞の「性」は、分子間の複雑な相互作用のネットワークによって、決定され制御されていると考えられているが、前述の「アニマ」と「アニムス」の概念は、これらの原始的な生物細胞の振る舞いと重なり合う部分がある。この生物細胞には、男性と女性という区別を越えた多様性があり、バイナリな構造の世界の中でいかにしてジェンダーを超越し、自らの性差を覚醒させるかという潜在力を持っている。本作ではこれらの映像を、美的なモチーフとしてだけではなく、性差を超えた存在から、身体=無意識のコンセプトを表す象徴として用いている。
西谷 郁(西部支部研究会代表)
連絡先 日本映像学会西部支部
住所 〒815-8503 福岡市東区松香台2-3-1
九州産業大学芸術学部内(超 瑞)
e-mail xiguyugmail.com