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日本映像学会 写真研究会
2023年度第12回研究発表会開催のお知らせ
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日本映像学会会員各位
写真研究会の研究発表会を、対面、オンライン併用にて開催致します。皆様のご参加をお待ちしております。
日本映像学会写真研究会
代表 佐藤守弘
https://sites.google.com/site/jasiasshaken/
▼開催概要
日時
2023年3月24日(日) 13:30開始 17:30終了予定(日本時間)
場所
同志社大学今出川キャンパス 寧静館N31教室、およびリモート配信
参加方法
*事前申し込み制
上記会場にての対面とリモート配信でのハイブリッド方式で開催いたします。会場参加、リモート参加とも、こちらのフォームからお申し込み下さい。いただいたメールアドレスに参加方法をお知らせします。
https://forms.gle/fN4RAUvrTXkcmhva6
なお、先着順で会場定員が埋まってしまった場合は、リモートでの参加をお願いすることもありますので、その場合はご了承ください。
▼報告者・報告内容
■研究発表1
戸部瑛理(明治大学博物館)
「写真と被災地——志賀理江子「螺旋海岸」(2012)の位置」
■研究発表2
福西恵子(立命館大学)
「帝国主義的・白人至上主義的なイデオロギーの(脱)構築——セントルイス万国博覧会における写真の分析」
■座談会
「「フォトグラフィック・アート——技術と芸術のあいだ」(『美術フォーラム21』第47号特集)を巡って」
司会:佐藤守弘(同志社大学)
討論者:倉石信乃(明治大学)、前川修(近畿大学)、中村史子(大阪中之島美術館)ほか
▼報告の要旨
■研究発表1
戸部瑛理(明治大学博物館)
「写真と被災地——志賀理江子「螺旋海岸」(2012)の位置」
本発表は、写真家の志賀理江子(1980-)の写真作品「螺旋海岸」(2012)と東日本大震災の関係を再検討するものである。一般に、志賀は2011年3月11日の東日本大震災に罹災し、津波により宮城県沿岸部「北釜」の住居とアトリエを失っていることが知られている。彼女は、震災の半年後に宮城県が10年間の復興計画を公表し、沿岸部の防潮堤の建設や防災林の整備など震災復興の具体的な内容が固められる間、対話やインタビューの形式で震災について語ってきた。その翌年に志賀は、震災前後にかけて北釜とその住民を中心に撮影した写真作品「螺旋海岸」を発表し注目を集めたが、本作には震災前に撮影されたイメージも含まれる。また、震災が作品の成立背景としてどのように関係するかという点に対しては、これまで明言を避け続けていた。本発表は改めてこの関係性に焦点を当て、いくつかの写真の分析から「螺旋海岸」の位置づけを確認することを目的とする。
志賀の写真作品には、不可解ともいえる光景が写されている場合も少なくない。それは、しばしば作者である志賀が「シャーマン」という言葉とともに語られてきたことの要因ともなった。ここではそれらの言説を精査するとともに異なる視座に立ち、写真作品と東北における民俗写真の系譜との接続、特に民俗学者としても東北を研究していた写真家の内藤正敏(1938-)の写真との比較を試みる。両者は、被写体の記録か創作かという点においては異なる一方、人物像の異様な写し方に一定の共通性があり、ともに土着性に対する強い関心が認められる。特に「螺旋海岸」の場合には、津波常襲地である北釜の土着性に基づく意識が志賀の創作の背景にあることを明らかにしたい。また、緑地景観の歴史的変遷を研究する菊池慶子の調査結果から北釜の成立背景を振り返り、志賀が1940年頃の北釜の「記念写真」を複写・引用した写真作品の分析をおこなう。そのことを通じて本作の位置づけにも関わる、被災地における写真家の「当事者性」のあり方の一端を検証する。
■研究発表2
福西恵子(立命館大学)
「帝国主義的・白人至上主義的なイデオロギーの(脱)構築:セントルイス万国博覧会における写真の分析」
1904年、セントルイスでは、アメリカがルイジアナ州一帯の地域をフランスから買収してから100年が経過したことを記念して、壮大な国際博覧会が行われた。このセントルイス万国博覧会の主催者たちは、当時アメリカで最新の農業、科学、そして建築技術や、諸外国の文化に関する展示を通じて、アメリカにおける文明の優越性、また、アングロサクソン系アメリカ人の人種的優越性をアメリカ内外の一般人に教育することを本博覧会の主な目的の一つとしていた。当時会場で作成され、流通した写真に関しては様々な先行研究が存在するが、こうした研究の中では写真が副次的な役割をしたものとされがちである。つまり、写真という媒体が、博覧会における人種的、または帝国主義的なイデオロギーをいかに忠実に反映しているか、といった議論があまりにも多いのだ。
本発表では、映画研究の理論を応用しながら、写真が当時「リアル」であると考えられていた概念やイデオロギーを単に映し出したのではなく、それらを「構築した」側面に注目する。更に、当時の写真で使用された「レタッチ(retouching)」などの技術に注目することで、写真がどのようにしてイデオロギー構築に積極的に関わったかについて詳細に議論したい。また、会場の主な展示スペースで撮影された写真と、モデル・プレイグラウンド(Model Playground)という会場の保育・託児施設などで撮影された写真を比較・分析することで、写真が当時の人種主義的・そして帝国主義的なイデオロギーを構築しつつも、それらの矛盾点を示したり、更には相反する意味を構築する、つまりは脱構築するかのような役割を果たしていた点についても論じる。
■座談会
「「フォトグラフィック・アート——技術と芸術のあいだ」(『美術フォーラム21』第47号特集)を巡って」
司会:佐藤守弘(同志社大学)
登壇:倉石信乃(明治大学)、前川修(近畿大学)、中村史子(大阪中之島美術館)ほか
昨年の6月、『美術フォーラム21』第47号(きょうと視覚文化振興財団)が刊行され、特集として、本座談会の司会を務める佐藤守弘の編集で、「フォトグラフィック・アート——技術と芸術のあいだ」が組まれた。その特集には、写真と芸術のあいだの複雑な関係を、写真発明直前から現代のデジタル時代までおおまかに歴史を辿りながら、再考しかつ挑発するような論考を14編掲載されている。また特集以外にも「現代作家紹介」では、中村史子が金サジの写真作品を紹介し、資料紹介や表・裏表紙に至るまで、雑誌全体にわたって、写真を中心的なテーマとして採り上げた。
今回の座談会では、執筆者を中心として、その特集の意義や問題点について、存分に語り合いたいと考えている。
参考資料:佐藤守弘・特集概要「フォトグラフィック・アート——技術と芸術のあいだ」(pp. 21-22)